Movie(+解説)

YouTubeで視聴可能な全映像に、ブログ記事より抜粋した怜士本人による解説を添えてお送り致します。歌詞は各映像の説明欄にてご覧頂けます。


長い活動休止期間を経てバンドへの幻想を捨て去り、ソロでの活動再開を決意した時に誕生した曲。元々メインとしてあったメロディーを捨てて、裏にあったメロディーをメインに持ってきた。「君は海/生かすも殺すも君の手の平の上」というフレーズは広島方面を旅した時、伯方の海を眺めていて閃いたもの。

映像について。中3の時、同じクラスにビートルズ馬鹿の友人がいて、毎日のように彼の家に入り浸っていた。彼の部屋の壁には、ビートルズのポスターと一緒にユニオンジャックの大きな旗が掲げてあり、俺はいつも「カッコええなあ…」と漏らしていた。

彼は大学を出るとお金を貯めて、長年の夢を叶えた。単身英国へ渡り、ビートルズの故郷リヴァプールを旅したのだ。帰国後、旅の報告をしに来た彼は、リヴァプールで買ってきた俺へのお土産を携えており、「昔から欲しい言うてたやろ?」と言って、一枚の大きな布をくれた。その布が映像の背景に掛かっているユニオンジャック。リヴァプールから海を渡ってやって来た「本物」のユニオンジャックを、記念すべき初映像を撮るに当たってスタジオに持ち込んだ。

一見して俺がUKロック好きである事が分かる、名刺代わりとしても機能してきた、お気に入りの映像。



19才の時、初めて彼女ができたのだが、僅か1年半で別れた。初めて味わう失恋の痛手は、最初、さほどでもなかったのだが、日を追うごとに耐え難いものになり、恥ずかしながら結構泣いた。が、それとは別にソングライターの性というものがあって、痛みをどこかで「おいしい」と思っている自分がいて、21歳の時、彼女と、彼女と過ごした日々とを想いながら二つの曲を書いた。

1曲は「ドライフラワー」といい、もう1曲は「夢の結晶」といった。「ドライフラワー」はその後、本格的にバンド活動を始めるや最も人気のある曲となり、ライブに欠かせない存在となって、現在でも演奏する主要な曲となったが、「夢の結晶」は2017年に歌詞を丸ごと書き換えて「紙吹雪舞う」として生まれ変わるまでの間、俺の中に存在するだけで、ライブはおろかスタジオですら演奏した事はなかった。初めてライブで歌った時、俺は40歳になっていた。

以降、ライブで歌う頻度は「ドライフラワー」を超え、多くの人から評価してもらえるようになった。友人のシンガーソングライター、バニーマツモロ氏からは「綺麗な物語が路地裏で語られている」というフレーズが素晴らしいと賛辞を受けた。

映像は…これは、「夢の結晶」が「紙吹雪舞う」になるまでの19年間居続けた空間がこんな感じだったんだろうなと思う。俺の中にこんな海底のような空間があって、外から光が差し込んだり、途絶えたり、揺らいだりしてたんだろうなと思う。



「爆弾」と聞いて、重いものを想像するだろうか、軽いものを想像するだろうか。

ロックって、外交的な人より内向的な人の方が向いていると思う。そして、明るい人より暗い人、暗い人より重い人の方が向いていると思う。

俺、基本的に声のデカい人が苦手だ。そして、声のデカい人にロックは向かないと思う。ロックやってる人で才能ある人は皆、ボソボソ喋る。驚くほど大人しい。だから、ロックやってる人って、どこかお笑い芸人に似ていると思う。爆弾は、自分で自分を抑制する癖のある人の中にある。

ところで皆さんは、ロックには、目には見えないが女神が存在するのをご存知だろうか。そして、その女神に突然後ろから抱き締められた場合、人がどんな事になるのかをご存知だろうか。この映像を観ればわかる。「未来へ」のラストに抱き締められた人間の奇妙な姿がある。



何をやってもうまくいかず、その都度、待ってましたとばかり馬鹿にされて、生きた心地がするのは発泡酒片手に商店街を行ったり来たりしている時だけ…そんな、あの時の自分に投げ掛けてやりたい言葉が「誰が何と言おうが俺は君のことが好き」だった。

「あの人はもうあの日のことを何一つ覚えちゃいないよ」

加害者は忘れる。

「あの人」は『口車に乗って』という曲中にも「君」として登場する。

「君はもう忘れただろう。その偽造した過去以外は」といった具合に。

もし、あなたの周りにも物忘れの酷い「あの人」がいて、あなたを馬鹿にしては喜び、あなたを苦しめているようなら、耐え忍ぶ事に慣れちゃいけない。なりふり構わず、犠牲を厭わず、逃げて生き延びてくれ。頼むから無駄に自分を責めるな。それこそ「あの人」の思うツボじゃないか。

大丈夫。誰が何と言おうが俺は君のことが好きだ!



実はめちゃくちゃ気に入っている曲。お気に入りの曲を10曲選べと言われたら間違いなく入る。

スタジオに入ると、ライブで演る予定があってもなくても、この曲だけは絶対歌う。目の前に大勢のお客さんがいると想定して、ポール・マッカートニーのリズムの取り方で、小刻みにお客さんに頭を下げたりなんかして歌う。

自分が書いた曲で、歌ってて楽しい曲ってあんまりない。「楽しい」以外の感情が湧く事はあっても、「楽しい」と感じる事はあんまりない。でも、この曲は別で、何度歌っても楽しい。ライブで演ると、会場の雰囲気がパカっと明るくなって、それがまた嬉しいし楽しい。

「orange」というタイトルには二つの意味がある。一つは「思春期の恋」。もう一つはこれ⬇︎

このアンプが好きで、これをイメージして作った曲でもあるから「orange」。思えば、制作過程からして、遊び心に溢れていて、楽しかった。

遊び心は映像にも表れている。それは、あえて画像編集に失敗したものを使ったという事。冒頭の「orange」の文字が右にずれてはみ出しているが、これは意図してこうなったんじゃなくてただの失敗。失敗ではあるけど、きれいに中央に寄せるよりオシャレだと思って修正しなかった。それから、映像全体に、一生使わないだろうと思っていたフィルターをかけてある。「印刷物の質感」とでも言おうか、キメの粗い、コミカルな感じのフィルターをかけてある。

他にも、いつもなら左腕に巻くブレスレットを右腕に巻いてみたり、ギターで隠れて見えないけど「KILLER TRACK」(「めっちゃええ曲」みたいな意味だろう。たぶん)とプリントされたTシャツを着ていたり、さりげなく遊び心を盛り込んだ楽曲、映像となっている。



曲ができた時、まるで他人事のように思う事がある。

これ、何ですか?と。

しばらくして意味を考え始める。作っている時は「作っている」という意識すらないから、意味が後付けになる。

歌うたびに想いが変わる。ある時は物言わぬ人たちへの憤り。またある時は物言えぬ人たちへの激励。亡くなった人たちが「物言わぬ」のか「物言えぬ」のかは知らない。

黒でもなく白でもない。熱くもなく冷たくもない。上でもなく下でもない。何一つはっきりさせぬまま進行し、高揚させていく。この技法を教えてくれたのはジョン・レノンだった。

音楽を聴いてきた人の胸には名曲として響くだろうと思うし、そうあることを願うが、音楽を聞いてきた人の耳にはただひたすらに「?」だろうと思う。

赤と黒。曲にマッチしていて、素晴らしい映像だと思う。またこのお店で演りたいし、撮りたいと思うのだが、残念ながら、二度とできない。なぜなら、もう、このお店は存在しないからである。



27歳の時だったと思う。『モナリザ』という曲を書いた。歌い出しの詩はこう。

「モナリザを気取るしか能がない僕の女神/この上なく美しくて無慈悲」

女神とは音楽のことで、当時俺の中にあった「救ってくれないじゃないか」という憤りが噴出していた。と同時に、音楽がないと生きていけないといった意味合いの言葉や、救われたいがために救おうとする姿も散見されて、まさに「愛憎」。曲の後半には「血も涙もない君の力を信じてる」というフレーズがあって、最終的には、音楽が俺を救えないのは、音楽が本来持っていた力を思い出せなくなってしまっているから…という内容だった。

『モナリザ』の詩の中には、『おせっかい』の詩と共通する箇所がいくつかある。その最たるものが、「弄ばれることに慣れた君の前で偽りの無い愛が空回りする」であり、「手助けを受け入れず」というフレーズも『おせっかい』に直結している。意識したわけじゃないから、気付いた時は驚いた。

あの時も、音楽が駄目になっていくのを痛切に感じていた。でも、まだ女神だった。本来持っていた魔法のような力を思い出せずにいるけど、思い出しさえすれば…という一縷の望みがあった。その望みが『おせっかい』にはなく、かつての女神は生身の女性と化してしまった。彼女への想いは変わらないし、だからこそ救いたい気持ちでいっぱいだけど、今はもう、それが自分を救うことに繋がるとは思えず、「側にいてくれ」と歌うのが精一杯だった。


<曲について>

この曲の面白いところは、サビらしいサビがない事…と言いたいところなのだが、実はちゃんとサビはあって、それはハープを吹いている部分。曲が初心者の吹くハープに主役の座を譲ってしまっているところがこの曲の面白さなのである。実際に、うちの奥さんが鼻歌でこの曲を歌っていて、よく聴くとハープのラインだったので笑ってしまった記憶がある。

<詩について>

芸術家について歌っているのだが、ライブで歌ってみて感じたのは、俺の中にある「俺はヒール(悪役)だ」という気持ちの炸裂だった。一般のお客さんだけを前にして歌う場合には芸術家として歌うんだろうけど、お客さんの中に同業者が多く紛れ込んでいる場合はヒールとしての気持ちが炸裂する。一緒にするな。拒絶してくれ。嫌ってくれ。そんな気持ちでいっぱいになる。煮えくり返るような疑問や憤りをいちいち言葉に置き換えて歌ったら、35分の持ち時間なんて到底足りない。何か別の方法で一気にドバッ!と吐き出せないものか…考えた末、肺活量の許す限り全力でハープを吹く事にした。

<映像について>

基本的にライブ映像というのは、カメラを固定すべきではないと思っている。撮影する人の気持ちが手からカメラに伝わって画像が暴れたら、それが最高の形。この映像は、そこに原因不明のレトロ感が絡んで、素晴らしい出来だと思う。

この映像を観た人の中に、終盤(3:09)の俺の右手の動きを真似てくれる人が現れた。なんか、凄く嬉しい。ロックスターのちょっとした仕草。真似した事は腐るほどあっても、真似された事は一度もなかった。


メロディーが言葉を連れてきた。アレンジに苦労したが、シスターマロンからのアドバイスを容れてキーを下げた事を発端に、ブレイクをなくして前奏を短くし、全体的にスピードを上げた事で一気に開花した。メロディーが言葉だけではなくギターの弾き方をも指示してくるように感じたが、そこは完全に無視して、指示してくるものとは真逆の弾き方を選んだ。バラード寄りに傾きそうになるメロディーをギターで叩き起こしながら展開させていく。

<写真解説>

【4】俺にとって特別な意味を持つ数字。サイコロには映像の「振り出し」という意味がある。納得がいくまで何度も撮り直した。

【ジョン・レノン(ザ・ビートルズ)】レノンは年代によって顔が変わる。めちゃくちゃカッコいい時もあれば崇高なくらい美しい時もあるが、ブサイクな時は本当にブサイクなので、一枚を選ぶのに思いのほか苦労した。

【盆踊り】俺が育った伊丹最北端は盆踊りのメッカで、夏になると異常な盛り上がりを見せる。皆それぞれにお気に入りの会場があって、俺のお気に入りは神秘的な雰囲気漂う天日神社。写真はその天日神社での模様である。

【リアム・ギャラガー(オアシス)】お世辞にも賢いとは言えない男。でも、どこまでも真っ直ぐで嘘がない世界最強のロックンロール・シンガー。

【伊丹】この写真を見て込み上げてくる気持ちは悲しさではなく悔しさだったりする。

【ピート・タウンゼント(ザ・フー)】(ギターを破壊する理由を訊かれて)「破壊こそ創造だからだよ」

【ユニオンジャック】もしイギリスという国がなかったら音楽を好きになっていなかっただろうし和田怜士も存在しなかった。そういう意味では「母国」と言える。

【キース・リチャーズ(ザ・ローリング・ストーンズ)】ギターと酒と煙草を教えてくれた人。

【真紅の薔薇】俺の色。

【山口冨士夫(村八分)】ルックス、ギタープレイ…全てが日本人離れしていた、日本で一番好きな「早過ぎた」バンドのギタリスト。8年前、暴行を働く米国人を止めに入った際に突き飛ばされて頭を強打。64歳で亡くなった。

【いい加減になさい】俺が描いたイラスト。

【クリスティン・マクヴィー(フリートウッド・マック)】俺の中の5大ソングライターの一人。恐るべきメロディーメイカーで、恋多き女としても有名。本名は「クリスティン・パーフェクト」

【シスターマロン】今にして思えば、コロナ以前の日常を切り取ったような写真。お気に入りの一枚。

【ジョニー・ロットン(セックス・ピストルズ)】ピストルズが『勝手にしやがれ!』を発表した1977年に俺は生まれた。それも、ジョニーが生まれた1月31日に生まれた。誕生日占いで1月31日を調べると大抵「反骨精神の人」とある。

【ミッキー&マロリー】初めて映画『ナチュラル・ボーン・キラーズ』を観たのは19才の時。衝撃だった。映画の中に理想の恋愛像があった。

【カート・コバーン(ニルヴァーナ)】自己否定の核弾頭。この人がありとあらゆるものを破壊し尽くした後、絶対的な自己肯定を引っ提げてオアシスが現れた…という流れを記憶している。

【2月8日】

【Ben】俺の親父。基本的に我の妻しか描かない画家。子供の頃は神か何かだと思って崇拝していた。63歳で亡くなると、亡くなってから駄目な部分がいっぱい見えてきて、ただのロックスターだったんだと思うようになった。

【ピエタ像】箱根の彫刻の森美術館にレプリカがあって見に行ったことがある。あまりの美しさに圧倒されて像の前で立ち尽くした。親父が「キリストよりマリアさんの方が大きいやろ?」と言ったのを覚えている。そう、いつだって男より女の方が大きい。

【ボブ・ディラン】ただひたすらに我が道を往く、ジョンやポールやキースに畏敬の念を抱かせるロック界の巨人。怒りを表現させたら上手い奴はいくらでもいるが、挑発を表現することに於いてディランの右に出る者はいない。

【蝶とカマキリ】向かって左が男。右が女。

【ポール・マッカートニー】「天才」という言葉を聞いて真っ先に思い浮かべる人。メロディーメイカーとしてもベーシストとしても凄過ぎてぐぅの音も出ない。やはり天才にもピンキリがある。彼が天才なら俺も天才なんだから。

【アダムの創造】「約束」という言葉を連想する。曲のイメージに寄せて選んだ一枚。

【和田怜士】俺が一番好きな日本人アーティスト。