ロックンロール・ウェザー誌 最新号より

昨日、何の前触れもなく突然、新曲「悪魔と呼んで」のデモ音源をブログ上で発表した和田怜士。その動機は一体何だったのか?また、この曲に込められた想いとは?半ば強引に彼を捕獲。インタビューを試みた。


「もう一発喰らいやがれ!」ってなもんだよ。

Q 今回、突然発表された新曲「悪魔と呼んで」のデモ音源ですが、これはいつ録音されたものなのでしょうか?

A 昨日だよ。昨日、スタジオで録って、その場でアップした。納得いくまで繰り返し歌って…アップしたのはたぶん13テイク目とかそんなんだと思うよ。

Q 発表しようとお思いになったことに特別な理由のようなものはありますか?私としては、前回の「the answer song」に大きなリアクションがあって、その勢いに乗って…ということではないか?と想像しますが。

A 逆だよ。「the answer song」は思っていたようなリアクションを得られなかった。もちろん、絶賛してくれた人たちもいる。ブログのコメント欄に書き込みをしてくれた人たちの他にもいたけど、ごく僅かだった。

Q だったら普通は退くんじゃないんですか?ブログ上での配信をやめようとは思わなかったんですか?

A 普通そうするんだろうなとは思ったよ。でも、普通そうするんならそれは俺がやるべき舵の取り方じゃない。逆に撃って出てやろうと思った。「もう一発喰らいやがれ!」ってなもんだよ。

Q あらためてお窺いしますが、ご自身では「the answer song」の出来をどう考えておられますか?

A 逆に訊いていい?君はどう?ライブハウスやライブバーで「the answer song」みたいな曲を聴いたことある?聴かせてくれるアーティストに出くわした事ある?

Q ありませんし、今後も…想像出来ません。

A だろ?じゃ名曲だし、俺は天才だ(笑)


思いたいように思えたり、言いたいように言えさえすれば、この世の中、狂人呼ばわりされるに十分だ。

Q それでは本題に。新曲「悪魔と呼んで」はどのような経緯で誕生したのでしょうか?

A これは前にも言ったけど、歌い出しのメロディーと歌詞は天気の良い日に信号待ちをしていて閃いたんだ。歌い出しの中に全体像が見えた。全てがあったから、完成するまでにさほど時間はかからなかったよ。

Q 歌詞…怜士さんの場合は「歌詩」ですが、この歌詩についてできる範囲で結構なので解説して頂けますか?

A これには二つの意味がある。一つは「芸術家は悪魔みたいなものだ」というもの。「涙の理由なんてどうでもいいさ/涙流す君が絵になれば」なんてまさに芸術家の悪魔的な側面を描いてる。「雪に溶ける君に口紅を/燃えるように赤い口紅を」というのは北野武監督の映画『アキレスと亀』のワンシーンをイメージしたんだ。頭の狂った絵描きが主人公の映画だった。

Q 具体的にどんなシーンだったんですか?

A 絵描きの娘が死んで、絵描きと妻とが霊安室に呼ばれるんだ。で、絵描きが妻に「口紅あるか?」と訊く。妻は死に化粧を施してくれるのかと思って口紅を渡すんだけど、絵描きは娘の唇に口紅を塗るやおもむろに紙を取り出して娘の唇に押し付けるんだ。つまり、版画だよ。娘の遺体を前にしてもなお芸術作品を作ることしか頭になくて、妻が「あなた狂ってる!」と叫ぶ。そんな壮絶なシーンだったよ。でも、俺はそのシーンを芸術家の魂の縮図だと思って、「これは一生忘れられないな」と思ったんだ。ま、曲にはあくまでモチーフとして反映させただけであって、意味合いは違うんだけどね。

Q どう違うんですか?

A 曲の方は実にシンプルで、大切な人が死んだとしても真っ赤な口紅さえ塗れば生き返らせることができると信じている男のことを歌ってる。底なしにポジティブ。そういう類の狂人。ま、本当は、そう思いたいだけだったり、言いたいだけだったりするのかもしれないけど、思いたいように思えたり、言いたいように言えさえすれば、この世の中、狂人呼ばわりされるに十分だ。

Q なるほど。では、もう一つの意味は?

A ある親友がいてね、その親友の奥方が俺のことを悪魔みたいに思っていて…。

Q え?

A いや、これは冗談じゃなくて本当にそうなんだ。彼女にとって俺は得体の知れない生き物でしかない。何より社会性を重んずる彼女にとって俺は亭主を悪の道に引きずり込む悪魔にしか見えないらしいんだ。で、そこにある出来事があって…俺はその出来事に全く関与してないんだけど、元を辿れば、その環境に親友を招き入れたのは俺で…彼女はその出来事を亭主の周りから俺を排除する絶好の機会だと考えた。頭良いね。だから、俺、その親友に会えないんだよ。もう何年も会ってない。会わせてもらえないんだ。子供の頃にはあったよ。親が子供に「あの子と遊んじゃダメ」っていうのが。でも、俺も親友も良い歳をした大人なんだから。情けないやら、悲しいやら、苛立たしいやら…。

Q 芸術家の特異な考え方を歌い、「死ぬまでずっと悪魔と呼んで」と歌う時、その親友さんの奥方の顔が浮かぶ…というわけですね。

A そうだね。別に彼女を意識して書いたわけじゃないんだけど、歌詩は歌詞以上に無意識がものを言うからね。ハーモニカを吹いてる間中ずっと「これでも喰らえ!」と思ってるよ。見事に響きに表れてるだろ(笑)

Q 確かに(笑)でも、感じるのは怒りだけではありませんよ。

A 俺の感情がどうであれ、ハーモニカを吹くこと自体はすごく楽しいからね。そう、最近、ハーモニカの音って自由そのものだと思う。絶えず音に揺らぎがあって…蝶の飛び方をそのまま音にしたような感じ。何とも言えない解放感を感じるよ。

Qハーモニカを吹く時に心がけていることはありますか?

A 「ギターを弾く時に心がけていることはありますか?」と訊かれたとしても同じように答えると思うよ。

Q どうお答えになるんですか?

A 全力(笑)


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