文化的に何もかも出尽くしたかのように見える現在にあって、斬新性を追求するというのはいわば修羅の道である。しかし、斬新性というものが常に衝撃的なものであるとは限らない。あまりのさりげなさゆえに、誰にも気付かれない斬新性というものも確かに存在する。例えば、この写真をご覧頂きたい。
言わずと知れたオアシスの1stアルバムのジャケットであるが、実はこの写真の中に、メンバーも気付いていなかったレコードジャケット史上初となる斬新性が潜んでいる。それは何か。そう、「フロントマンが寝そべっている」ということなのである。このアルバムが発表されるまで、フロントマンが寝そべっているレコードジャケットは存在しなかったのである。
では本題へ。今回、配信を開始した『果物をてんこ盛った巨大なケーキ』は「2021 remaster」となっている。リマスターというのはつまり、新たに画像処理を施したということで、具体的には<①照度を上げた②照明に揺らぎを加えた③歌詩を表示した>の3点なのだが、皆さんは「ん?」とお思いにならなかっただろうか。「この曲に歌詩表示要るか?」とお思いにならなかっただろうか。もしそう思われたのならお答えしよう。この曲だからこその歌詩表示なのである。
一聴、何の斬新性も感じられない曲である。がしかし、この曲には先程のオアシスのジャケットにあったものと同じ種類の斬新性が潜んでいる。歌詩の中の「大好きだ」である。
あなたの周りに「大好き」という言葉を使う男性がいるだろうか。大抵「好き」止まりで「大好き」はいないだろう。ましてや、40歳過ぎで…いないだろう。また、男性アーティストの歌の中に「大好き」という言葉が出てくるのを聴いたことがあるだろうか。アイドルでもないのに「大好き」と歌ってる奴を見たことがあるだろうか。ないだろう。女性アーティストならまだわかる。でもそれもアイドルとかそんなんだろう。男性アーティストで「大好き」という言葉を使ったのは後にも先にも俺しかいない。おそらく、日本音楽史上初なのである。
考えてみればおかしな話である。「好き」と「大好き」では熱量が違うのは明らかで、きちんと想いを伝えたいのなら「男だから」とか抜きに「大好き」と素直に言えばいいのに皆、恥ずかしがって言おうとしないし歌おうとしてこなかった。「好き」で「大好き」の熱量を表現しようと思えば、「好き」の前後に回りくどく様々な言葉を付け加えて「好き」を装飾せねばならない。だから、巷のラブソングはどれもくどくどと長く、『果物をてんこ盛った巨大なケーキ』は僅か2分30秒なのである。