愛憎の反ブルース旗手

楽器屋でギターの試奏を願い出ると、スタッフがシールドを繋いだりチューニングをしたり、色々と準備してくれる。で、チューニングを済ませると、客にギターを手渡す前に必ずと言って良いほどワンフレーズ弾く。もちろん、チューニングが合っているかどうかを確認する為なのだが、先日「ん?」と思ったのは、そのワンフレーズの内容がどいつもこいつもブルースだということである。

「僕、腕に覚えがあるんです」と言っている。下手すりゃ、「僕、おそらくあなたより上手いです」と言っている。ように感じてチクッとイラッとする。

数秒で腕に覚えがあるように見せたい時、ブルースは便利である。ほんのワンフレーズで「あれ?この人ひょっとして上手い?」と思わせることができる。でも、これをやる奴が異常に多いというのはどういうことかというと、単純に簡単だからである。彼らが弾いているのはブルースではなく、見様見真似の「ブルースな感じ」であって、そんなもん、俺でも弾ける。

以前にも書いたが、ライブバーやなんかでお店に気に入られたかったら一番の近道はブルースマンを名乗ることである。名乗るだけで良い…いや、違うな。ハンチング帽が要る。ハンチング帽をかぶって「ブルースやってます」これだ。これで良い。本当にブルースをやる必要はない。音楽みたいなもんは二の次だ。四畳半フォーク崩れで構わない。お客さんやお店の人が知っているのは「ブルースな感じ」であってブルースではないからいくらでも誤魔化しが利く。現実には「誤魔化しが利く」ったって、誤魔化す側に誤魔化すつもりがなくて誤魔化される側に誤魔化されている自覚がないという白痴染みた…いや、失礼。罪のない平和な世界なのであるが、残念ながら、それこそが俺の攻撃対象。破壊したいもの。なぜなら、本当に音楽が好きで、真面目に音楽やってる者にとっては目障りでしかないし、正当な評価に飢えている者にとっては「ちゃんちゃら可笑しい」と言って容易く受け流せる問題ではないからである。

知ってる。ブルースって本当はめちゃくちゃ偉大な音楽だ。ロックンロールが負けるとすれば唯一ブルースだけだとすら思う。本物を観れば、聴けば、感じれば分かる。アホほど素晴らしい音楽だ。でも、俺はあえて頑なにブルース嫌いの旗印を掲げていこうと思う。厳密に言えば「ハンチング帽をかぶって四畳半フォーク崩れを歌う自称ブルースマンが嫌い」なのだが、いちいちそんな回りくどい言い方をしなくても、真意を、分かる人には分かってもらえるだろうと思う。

哀しい哉、ブルースが嫌いだ。


2件のコメント

  1. 先日、自称ブルースマンがベロンベロンに酔っぱらいながら、のらりくらりと歌うのを見た。
    歌よりもしゃべくりの時間の方が長いのだ。
    既に呂律が回っていないのに「まだ呑みが足らんなぁ。」と度々酒を口にし、しゃべり続ける。歌えよ。

    やっと歌い始めた歌に中身は無い。
    これを堂々とステージの上で繰り返す。なんなんだ。
    しかも「オレ様はスゴいだろ。」という自信すらチラチラ見せてくる。
    そいつの頭にもハンチング帽。
    客は雰囲気にのまれてか、笑っていた。

    「ふざけんな。」
    ブルースが何なのかも良く分からない自分だが、自然と出た言葉がこれだった。

    1. いいものを観ましたね!なかなかお目にかかれませんよ、そこまで見事に仕上がってるのは(笑)
      「オレ様はスゴいだろ。」という態度。よくわかります。目に浮かぶようです。そう、エラそうなんですよ。虎(ブルース)の威を借りてるだけの分際で。スゴいのはブルースであってお前らではないと言いたい。

      ブルースの顔に泥を塗り、ハンチング帽の名誉を毀損し、酒に共犯者の濡れ衣を着せ…死ねばいいのに♡

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