あるアーティストがいる。この人は歌もギターも上手くない。ソングライターとしても、お世辞にも器用とは言えない。が、他のアーティストに比べて断然良い。歌、ギター、作曲能力。一つ一つ分けて見ると特に秀でたものはないのだが、トータルで見た時に、全てがある一つの点で見事に絡み合っている。
この「点」とは一体何なのか。考えてみたところ答えはすぐに出た。要するに日頃から良い音楽を聴いているということなのである。他のアーティストより良い音楽を聴いていて、良い音楽とは何かを知っているから、他のアーティストより良いという、ただそれだけのことなのだが、この「ただそれだけのこと」が雲泥の差を生む。
「本当に旨いものを知っている人には不味いものがわかるが、不味いものばかり食っている人に本当に旨いものはわからない」とはよく言ったもので、本当に良い音楽を知っている人には駄目な音楽がわかるが、駄目な音楽ばかり聴いている人に本当に良い音楽はわからない。
彼(彼女かもしれないが)は良い音楽を知っている。そして、それが音楽の基本的なクオリティだと思っている。それ以下はなくて、それ以上だけがある。
地平線は人の数だけあって、自分が見ている地平線だけが地平線ではない。その上や下にも無数にあって層をなしている。