バンド時代からそうだった。他のメンバーはライブハウスのスタッフや他のバンドと仲良くして、上手くやっていた。俺にはそれが出来なかった。演技すら出来なかった。事実上のリーダーとして、いつも申し訳なく思っていた。俺、普段はぽよよ〜んとしている。虫に例えればそれこそ蝶々やカナブンみたいなもんなんだけど、音楽をやるとなると途端にスズメバチみたいになってしまう。
「誰かと仲良くなりたいがために音楽やってるわけじゃない」という頭があるのは確か。でも、それ以上に、俺の中にあるのは昔も今も、もし俺の人生に、運命を劇的に変えてくれる人との出会いがあるとすれば、その人には人を見抜く力があって、俺とその人との関係は、見抜き見抜かれるというところから始まるんだろうというドラマチックな筋書き。
だいたい、俺自身に「本当にそうなのか?」と疑ってかかる癖がある。人には「ぱっと見の印象」というものがあるが、それよりもその裏にあるものが気になって仕方がない。ぱっと見の印象というのは、その人が「こう見られたい」と望む、演技染みた姿であって、いわば作り物。俺は、その仮面のようなものではなく、それに覆い隠されている部分が気になる。
いい人と言われている人は本当にいい人なんだろうか?ただの八方美人じゃないのか?ややこしいと言われている人は本当にややこしい人なんだろうか?実は賢明なるカモフラージュで、そうやって関わる人間を選んでいるだけじゃないのか?
スズメバチでいることのメリットは、ぱっと見の印象を真に受ける浅はかな人たちを寄せ付けずに済むということ。彼らにとって、俺はスズメバチ以外の何者でもない。だから、「あっち行け」みたいなことをわざわざ言わなくても、向こうから勝手に敬遠してくれる。
スズメバチでいることのデメリットは、「本当にそうなのか?」と、一歩突っ込んで人を見ようとする人が待てど暮らせど現れず、寝ても覚めてもスズメバチでおらねばならないということ。これは、今のところ、誤算だったと認めざるを得ない。思っていた以上にどいつもこいつも浅はか。純粋というか、幼稚というか…。
今日もそこら中で、見るからにいい人が見るからにいい人の事を「いい人」だと言って笑っている。握手なんかしちゃって。大人の利害関係。いいね。羨ましい。ところで皆さん、あの人たちの魂胆の姿形って虫に例えたら何に似てるか知ってます?
スズメバチですよ。
どちらが先に相手の手を握り潰すか…始めからそういう握手なんですから。