アホに願いを

もし、あなたの目の前に坂田利夫みたいな風貌をした親指寸の神様が現れて、「大それた願いは叶えてやれんけど、ささやかな願いやったら叶えたんで」と言ってきたら、どんな願い事をするだろう。

俺の場合、願いは一つ。

「雷を怖がらない人間にして下さい」

雷。幾つになっても…っていうか、歳を重ねるごとに恐ろしさが増していく。死ぬほどゴキブリが苦手な友人に、玄関へと続く廊下にゴキブリの死骸があって、その日一日外出できなかったという奴がいるが、その気持ち、痛いほどよくわかる。俺も、雷が鳴ってたら家から一歩も外へ出ない。ああ、面倒臭い。こんな自分が面倒臭くて仕方ない。

人生とは何か。俺の親父が出した結論は偶然にもジョージ・ハリスンと同じで「変化」だった。「成長」だとすると「老い」に説明がつかない。だから、人には変化だけがあって成長も老いもない。そう言っていた。

人は変化する生き物。本当にそうなのだろうか。俺に雷が怖くなくなる日なんて来るんだろうか。いつかそんな日が来るという希望を持ちながら生きていても良いのだろうか。「アカンかもしれん」という懐疑心を抱きながらの希望や祈りほど無力なものはないのに?

笑いたくなるのはよくわかるし、笑われたとて頭に来たりはしない。でも、かなり切実な悩みであることは確かなのだ。人知れず、自分の中から聞こえてくる「いい歳して」「男のくせに」といった類の言葉に苛み続けねばならない。

坂田利夫みたいな風貌をした親指寸の神様。頼む。俺の願いを叶えてくれ。叶えてくれたら嬉しい。嬉しい…よな?あれ?なんか腑に落ちない。考えてみれば、願いを叶えてくれるということはつまり、利夫が俺のこの願いを「ささやか」だと思っているということ。

アカン。悩みが悩みだけに、神様が神様だけに、どう転んでも腑に落ちん…。


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