MUSE

子供の頃、吃りが酷かった。もの凄く辛かった。しょっちゅう笑われたし、笑われるたびに殺意を感じた。自由に喋れないって本当に辛い。この辛さ、自由に喋れる人には絶対にわからない。自由に喋れる人が心から羨ましかった。でも、自由に喋れると人は言葉を雑に扱うんだなと思って、雑に扱わない、扱えない自分の将来に少しだけ希望を持っていた。

今は吃りで本当に良かったと思っている。意識的にではなく無意識のうちに言葉を覚えよう覚えようとする癖がついていて、この癖が歌詞を書く時に役立っている。

実は今も治っていない。全く治っていないけど、誰にも気付かれなくなった。というのは、声に出す前に一度、頭の中に文章を並べて、検証して、出そうにない言葉があれば同じ意味の別の言葉に変換する…ということが一瞬でできるようになったからで、これができるようになったのは言葉を覚えたから。言葉は数限りなくあって、覚え尽くすなんてことは死ぬまであり得ないから、今も絶えず言葉を探している。

生まれて初めて本気で憧れた職業はお笑い芸人。ビートたけしが大好きで、ビートたけしになりたかった。毒舌。攻撃的な笑い。でも、まともに喋れないから無理…と諦めた時に音楽が現れた。ビートたけしを諦めてビートルズになろうと思った。歌う分には一切吃らない。どんな言葉もメロディーに乗せたら言える。言いたいことを言える。これに気付いた時、大袈裟ではなく、神様を思った。捨てる神あれば拾う神あり。音楽は神様だと思った。神は神でも女神。彼女が俺に「一生、私のために尽くしなさい」と言ったのが聞こえたような気がした。

音楽やってる人で、俺が好きなのは真面目な人。嫌いなのは不真面目な人。例えば、好きな人がいて、その人に不真面目な気持ちで近寄ってくる奴がいたら、恋愛ゲームを楽しみたいだけの奴がいたら、嫌いになって当然だろう。でも、自分の好きな人に自分と同じくらい真面目に情熱的にアタックしている奴がいたら、負けてたまるか!とは思っても、嫌いにはなれないと思う。たまに、悔しいけど尊敬できたりなんかもする好敵手。自分のやり方を見つめ直す機会を与えてくれる有難い存在。

音楽に救われた。音楽がなかったら今の自分はなかった。だから、「恩返し」と言ったらおかしいけど、真面目にやる。「楽しければいい」だなんて、音楽をオモチャのように捉えている奴らは片っ端からブッ飛ばしてやる…っていうか、もう、そういう奴らとは同じステージに立ちたくない。意味のないライブはしない。その一方で、それぞれの理由で、俺と同じように音楽に救われたという気持ちがあって真面目にやってる人たちには最大限の敬意を払いたい。同じステージに立って敬意を払いたい。ベストなパフォーマンスをもって敬意を払う、そんな意味のあるライブ、音楽活動を続けていきたい。


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