だから私は嫌われる

海賊ライチでライターを担当してくれている本田純正は、劇団を主宰している脚本家で、同時に演者でもある。俺に「音楽やってる人たちってやたらと立て続けにライブやるけど、1回のライブをどう捉えてんの?練習はするとしても、他にライブの為に準備することってないん?」と言ったのは彼で、目から鱗。確実に俺の考え方を変えた。今や良き相談相手。エグゼクティブ・アドバイザー的な役目を担ってくれている。

最近、俺の中で、ブッキングイベントというものへの興味が加速度的に褪せてきている。ブッキングイベントに出て他のアーティストを観ても、良いと思えるのは10組に1組いるかどうか。ほとんどが観ていて苦痛でしかない。そんなのを俺を観に来てくれた人たちに見せるのはいつも本当に心苦しいし、「そんなのと一緒にやっている」というところが影響して、俺への評価があるポイントで止まって、そこから上に上がって来ない感じが物凄く歯痒い。「良い演者とやらないと自分の評価が下がる」純ちゃんの言う通りで、だからこそ、次回4月のイベントの出演者を事実上、選ばせてもらった。

自分の存在を知ってもらうことを目的としたイベントへの出演は避けて通れないし必要なことだと思う。でも、どうにかこうにか、ツーマンやワンマンを基本軸にしていきたい。ツーマンやワンマンをやるかたわらイベントに出る…という形に持っていきたい。そこで、純ちゃんに相談相手になってもらった。

彼が主宰している劇団は基本的にワンマンやツーマンでの公演で、一度の公演につき3日くらいやるらしい。劇場を借りるには週末で1日につき6万〜7万、3日で20万くらい必要で、さらに業者に依頼してプロ仕様のフライヤーを製作するので、合算すると相当な金額になるのだが、これを主宰者である彼が全額支払う。

チケットの価格設定も主宰者の仕事なのだが、集客というものは価格を上げると減り、下げると増える…という単純なものではない。多くの人に観に来てもらいたいので出来る限り下げたいところだが、下げ過ぎると「その程度の劇団なんだろう」と見くびられて逆効果になる。かと言って、「一度観てみようかな」みたいな人たちに観に来てもらおうと思えばやはり下げざるを得ない。劇場は我々音楽人が出ている店のようにフードやドリンクが出るわけではないから、チケットの売り上げが全て。だから、劇場が劇団の集客力を見る目はおのずと厳しくなる。とは言え、「赤」を出さないことや目先の利益に捕らわれて知り合いに頼っているといずれ必ず継続していけなくなるから、今現在の赤は投資だと捉えて、間口を広げて、一人でも多く新しいお客さんを獲得していかねばならない。また、そうして着実に結果を出していかないと、今度は劇団員からの信用を失うことになる…という修羅の道。

脚本を書き、劇場を押さえ、メンバーを選び、演者として稽古を重ね、チケットの価格設定やフライヤーの製作をし…年に3、4回が限度だ。でも、1回1回の舞台に注いでいる熱意は絶対、お客さんに届いていると思う。それにひきかえ、我々音楽人はどうだろう。軽い練習の他に何の準備もせず、下手すりゃステージを練習場所にして、年にではなく、月に3回も4回も同じようなライブをして、やれどもやれどもお客さんが来ない…と嘆くのならまだしも、楽しけりゃ良いんだと言いながら心ひそかに他の演者が呼ぶお客さんをアテにしている。音楽人は口を開けば「楽しい」「楽しかった」。他の言葉を知らない。でも、純ちゃんは舞台が迫るたびにこう漏らしている。「俺、いつまでこんなしんどいことやってんねやろ。毎回、「これが最後。やめよ」と思うけど、気付いたらまたやってる」意識の持ち様に天と地ほどの開きがある。

大所帯になればなるほどフットワークは重くなる。だから、劇団よりバンド、バンドよりソロで活動している人の方がフットワークは軽い。そのフットワークの軽さは利用すれば良いと思う。それはそれで武器なんだから。でも、そこに甘え過ぎておかしな事になっているように思う。ライブの前に、ライブの為に、やるべきことがもっとあるはずで、それを思い付く限りやったとしても、劇団の人たちよりフットワークは軽いままだろう。

「それにしてもお前のフットワークは重過ぎるんじゃないのか?怠け者が」同業者たちの声が聞こえてきそうだ。でも、俺は徹底的にソングライターでありたいから、曲を作る為の時間を最優先する。「売り」にも色々ある。「年がら年中ライブをやってる」というのもそうだろう。でも、それはあくまで、色々とある売りの中の一つでしかない。そもそも、ライブ活動だけが音楽活動ではないはずだ。ソングライティングだって音楽活動だ。俺は、良い曲を作れる人間で、良い曲を山ほど持っているというのを売りにしていきたいし、この一点を生命線に、アピールして、信用を得ていきたい。例えば、昨年の全曲新曲ライブなんてまさにそう。あれは「信じて欲しい」という気持ちの表れだった。

信用されるアーティストでいたい。そう強く思えば思うほどフットワークが重くなり、たまにこんな文章を書いたりなんかして、同業者から嫌われることになるのだが、そんなもの痛くも痒くもない。

同業者に好かれてるようじゃ駄目だ。嘘をついてでも好感度を上げて何処かに寄生しようという小ぢんまりとした輩ばっかりなんだから。


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