秘境大冒険

子供の頃、狂おしい程に愛読していたコミックが一冊、あった。
大長編ドラえもんシリーズの中の一作で、たぶん、『のび太の秘境大冒険』というタイトルだったと思うが、、ドラえもんの道具が、この地球上に於いて、一ヶ所だけ、人間がまだ知らない、足を踏み入れたことのない場所を発見して、行ってみようということになって行ってみたら、そこに大冒険が待ち構えていた。―という話で、私は何故か、この「地球上に未知の場所がある。」という設定に異常なまでの興奮を覚えて、数え切れないくらい何度も何度も読み返したが、全く飽きるということがなかったのである。

私は、私自身にとって芸術とは何ぞや!みたいなことを考える時、いつも、この『のび太の秘境大冒険』が頭をよぎる。
「未知なるもの」があるということへの期待と、そこで大冒険したいという願望を満たしてくれるものが、私にとっては、芸術意外に考えられない、と。そういうことなんだと思う。

『秘境』は人の内にあって、この秘境を形として表したものが、芸術作品で、誰かの拵えた秘境の中に飛び込んでって大冒険するのも楽しいし、それより何より、自分の中の秘境を大冒険するというのは、これはもう、筆舌し難く楽しいから、私は芸術というものが大好きなんだと思う。だから、私は、基本的にはバンドマンで、バンドマンとしてのプライドを持って生きている音楽の人だが、音楽だけでは物足りないのだ。
音楽が秘境なら、絵画や文学もまた秘境で、要するに私は、年がら年中冒険していたい、子供心の抜け切らない、冒険野郎なのである。

戦場カメラマンは、戦場へ行くことが病み付きになるというが、わからんでもない。彼ら戦場カメラマンは、精神的に、どこかまだ完全に子供なんじゃないか?と思う。

男は永遠に男の子で、男の子は永遠に冒険好きである。


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