すだち。その複雑な味。

冒頭、声が思うように出なくて焦った。その上、マイクが逃げていくので苛立った。

「今日はこれ、巻き返さなあかんパターンのやつや」

喉の調子が悪い時のリアムの気迫と、ビートルズが来日公演でマイクに逃げまくられていた時の静かな怒りとを思い浮かべて、3曲目以降、力技で巻き返した。

風邪でもないのに、喉に何かが絡んでいるような感覚があった。無理に押したら裏返ると思ったけど、そんな、中途半端にかわすようなことをしたら声が裏返るとか裏返らないとかではない、もっと大事なものがアカンことになってしまうと思ったから、「南無三!」と心の中で叫んで、押しに押したら裏返らなかった。

声の調子が悪い分、ギターに全てを託して弾き倒した。すると、今度はギターのチューニングが怪しくなってきたので、チューニングのズレが顕著に出る5曲目の前でチューニングをした。

6曲目は最高の出来だったと思う。

7曲目、最後の曲では歌詞を一部飛ばしてしまうというミスをやらかしたのだが、これは不思議と嫌な感じではなく、逆に、ミスを楽しんでいる自分がいた。

僅か30分の持ち時間の中で色々とあった。

ライヴ後、お客さんからの反応は3つに分かれた。ある人は「和田怜士はあんなもんじゃないだろう!」と言い、ある人は「曲は良かった」と言い、ある人は「後半良かった。前半分の金返せ」と言い、ある人は「圧巻」と言い、ある人は「ダントツで良かった!」と言ってくれた。

これだけ評価の割れるライヴをしたのは初めてのこと。っていうか、お客さんの評価が一つ一つちゃんと自分の耳に届くようになっているということに驚いた。

音楽人としての俺はハッキリとしたものの言い方をする。だから、俺の周りにいる人たちも実にハッキリとしたものの言い方をする。そしてそれが俺を成長させてくれる。

覇気なく「よかった」なんて、何の足しにもならない伸びた麺のような褒め言葉なんていらない。


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