先日の太陽と月でのライブの模様を収めたCDが、Dr.F(海賊ライチrecords)によるマスタリングを経て手元に届いた。Dr.によれば、音質は特に手を加える必要を感じなかったので音圧だけ上げておいたとの事。
一聴した感想は、音もパフォーマンスも申し分ないということ。リハの時にPAさんにギターのベース音を上げて欲しいとお願いしてあったのだが、バッチリ上げてくれていて、思い通りの音になっている。パフォーマンス的にも、カットする必要を感じるようなミスはどこにも見当たらない。声の調子も良く、感情を込めて歌えていて、Dr.が「過去最高の出来」と評したのも頷ける仕上がりになっている。ただ一つ、一つだけ気になった点がある。それは、音として伝わってくるお客さんの反応である。
前作『DABADA TV SHOW』にはあった、客席に立ち込める熱のようなものが伝わってこない。俺とお客さんが挑発し合って一緒になって昇っていく相乗効果のようなものが感じられない。これは残念だ。残念な事だ…と、昨日、初めて聴いた時には思ったのだが、一夜明けて、ふと思い出したのは、ステージの上から見ていた客席の光景である。
皆、微動だにせず、見入ってくれていた。ステージから見て左、カウンターに並んで座っていたバニーさんのお客さんが皆、こちらを向いて固まっている彫刻か何かに見えた。「雫」を歌っている時には、カウンターの中でこちらを向いて腕組みをして立っているスタッフの男の人が固まっていて、やはり彫刻か何かに見えた。そして、これはCDを聴いてもわかるのだが、本当に、誰の話し声も聞こえなかったのである。
つまり、緊張感があったんだと思う。これはひょっとしたら、中央の通路を隔てて左右にバニーさんのお客さんと俺のお客さんが分かれていたことが影響していたのかもしれない。何かピリピリしたものが演者同士だけではなく、お客さん同士にもあったのかもしれない。いずれにせよ、俺自身は燃えていた。躍動していたのだが、客席には冷たく張り詰めた緊張感があった。このギャップがCDを初めて聴いた時の違和感に繋がったんだと思う。でも、そんなお客さんの表情を含めて、決して悪いライブではなかった。っていうか、やはり、過去最高のライブだったんじゃないかと思う。
不思議な温度差。ステージの上に太陽があって、ステージの下に月があった。そして、その月が太陽を覆っている…というような音が、和田怜士の新しいライブアルバムにはある。