Q お久し振りです、怜士さん。
A おう。久し振りだな。君のところはよくインタビューしに来てくれるけど、今日は何?今、俺に訊きたいことなんてある?
Q ありますよ。まずはなぜ全曲新曲ライブ以降立って演奏するようになったのか。その心境の変化を伺いたいんですが。
A ある日突然、座って演奏していてもテンションが上がらなくなったからだよ。スタジオでリハーサルをしていて、「あれ?」ってね。ライブが迫っているのにテンションが全く上がらない。焦って、スタジオの壁を見たらストラップがぶら下がってて、それを使って久し振りに立ってやってみたら「おっ!」と。
Qそもそもなぜ座ってやってらしたんですか?
A いや、ソロに転向して初めてのライブの時は立ってたんだよ。2度目のライブから座ることにしたんだ。ある日、立って演奏している人のライブを観ていて、座って観ているお客さんとの間に温度差があるのを感じてね。演者が立つことでお客さんの冷めた感じが引き立ってしまっていた。そうしてお客さんの冷めた感じが引き立つことで今度は立って演奏している演者が浮いているように見えた。だから座って、表向きだけでもクールダウンして見せて、目線を合わせようと思ったんだ。
Q なるほど。
A でもね、クールダウンして見せるのを続けてたら、ある日突然、本当にクールダウンしちゃってる自分に気付いたんだ。優等生のフリをし続けていた不良が本当に優等生になっちゃってる自分に気付いて「これはアカン!」というね。立つことで俺は不良に戻ったんだよ。温度差なんてもうどうでもいい。だいたい、俺のパフォーマンスを目の当たりにしても冷めていられるというのは、それはもう不感症以外の何物でもないんだから、ここへ来る前に病院に行けという話だ(笑)
Q (笑)その温度差が現在制作中の『eclipse』には顕著に現れているとの事ですが、それをあえて作品として発表することにしたのはなぜですか?
A あれはね、温度差のようで温度差じゃないと俺は捉えてるんだ。最近、そう思うようになったんだよ。あの時、あの人たちは冷めてたんじゃない。かと言って「俺に圧倒されてた」なんて言うつもりもない。俺はそこまで自惚れ屋じゃないからね。俺はただ、あの時、お客さんの中にあったのは「?」だったと思うんだ。「これは一体何なんだ」というね。
Q 私もあの日、会場にいましたが確かにそんな雰囲気がありました。私の中にはあの不思議な雰囲気に対する「?」がありました。
A 「冷める」と「冷える」とじゃ意味が違うと思うんだよ。人は自分が知っているものについてだけ良し悪しがわかる。人が「つまらない」と感じるというのは、その類の良いものと比べた場合に良くないから「つまらない」となるわけだね。「あ、この感じ知ってる」と思って一瞬、その類の良いものを思い浮かべて、期待して、熱くなる。でも、その良いものに比べて全然ダメだと気付いた途端に熱くなったものが「冷める」んだ。
Q では、「冷える」とはつまりどういうことですか?
A 自分の中に無い、知らないものが出てきて「わからない」となった時、人は「冷える」んだよ。怖いんだ。で、その得体の知れないものが猛烈な勢いで主張してくると人は凍りつくんだ。俗に言う「フリーズ」だな。そう、だから俺は、あの時のお客さんの大半はフリーズしていたんだと思ってるんだよ。
Q なるほど。でも、中にはハンドクラップしてくれる人たちや、怜士さんの「ロッケンロー!」に「ロッケンロー!」で応えてくれる人たちもいましたね。
A 俺のお客さんだよ。俺の音楽をよく知ってる人たち。で、気に入ってくれてるからこそ、雷雨の中わざわざ観に来てくれたわけでね。当然ながら、あの人たちに「冷える」はあり得ない。ま、俺のパフォーマンスがサッパリだった場合には一瞬にして「冷める」んだろうけどね。厳しいんだ(笑)
Q 怜士さんの音楽がわかるって凄い事ですね。凄い人たちだと思います。
A 失礼か!(笑)でも、そうだね、本当に感謝してるよ。あの人たちがフリーズしている人たちを見て「へえ〜これがわからんねや」って悦に入ってくれてたら嬉しいよね。思いっきり馬鹿にしてやればいい。演者同士が火花を散らすように、お客さん同士も火花を散らすようになれば面白い。俺のお客さんは音楽をよくわかってるからね。俺のお客さんが「冷める」ようなパフォーマンスをする奴は音楽やめちまえ!そんな奴の客は客やめちまえ!ってなもんだよ。
Q お話を伺って、『eclipse』を聴くのが待ち遠しくて仕方なくなってきたんですが、年内のリリースに漕ぎ着けることはできそうですか?
A わからない。わからないけど、君みたいにアルバムが出るのを待ち遠しく思ってくれている人たちが「冷める」前に出したいとは思っているよ。