砂漠に心の水たまり

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24の時、心斎橋にあると或る事務所の扉を開けた。そして、その時そこに立っていた人が、あの時のあの人が、私にとって、今も変わらず、理想の女性なのである。あの時は本当に、一目見て、「出た!」と思った。

化け物かと思うくらい綺麗だった。そして、私のような救いがたいひねくれ者(今よりはるかにひどかった)の話を、何時間にも渡って聞いてくれたのである。

この世に、あの時のあの人はもういないが、あの時のあの人を思い出したい時、私はいつもこのアルバムを聴く。「心臓が破れるほどの美しいメロディを書く」と言われているUKのバンド「キーン」の1stである。私は、このアルバムの1曲目を聴くたび、あの時のあの人を思い出す。

当時、このアルバムはまだ出ていなかったし、私がこのアルバムを初めて聴いたのは、あの人と出逢ったあの瞬間から10年後のことであった。にも関わらず、ここにあの時のあの人がいるのである。

方向性の定まらない漠然とした恋愛願望にやられて、目が泳ぎだして、実際は60点くらいの女の人が90点くらいに見えだしたら、私は、砂漠の中で小さな水たまりを見つけた人みたいな感じで、このアルバムを手にとって、爆音で聴いて、我を取り戻して、ホッと一息、「助かった…」と呟くのである。

自分を安売りしそうだという絶体絶命のピンチ、崖っぷちから救ってくれるものが、幻であろうが蜃気楼であろうがいっこうに構わないのである。


2件のコメント

  1. 久々にしびれる文章を読んだぞ!

    久々だがこれ以上言うことはないからまた来るぞ!

    1. じゃ、痺れついでに、騙されたと思って、『HOPES AND FEARS』を買って、聴いてみてくれ。それからまた、『砂漠に心の水たまり』を読み返してみてくれ。

      きっと、手に取るようにわかってもらえると思う。俺の言わんとしてることが。

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