葬儀記

親父の葬儀に際して、私の中で一つだけ決めていたのは、「一滴たりとも涙は流さん!」であった。

遺体を棺に入れる「入棺の儀」の時に、葬儀場のスタッフの人に「喪主様は頭(おつむ)を抱えて差し上げてください」と言われて、自分が喪主様であることに気付くまでに5秒くらいかかって、「おつむってなんやねん。あたまって言えや」とか考えてたら不意に「あ、喪主様って俺のことや!」と気付いて、親父の頭を抱えたらすっかり油断してたもんだからドバッと涙が出てきて、「しもた!序盤でいきなり躓いてしもた!」とは思ったものの、その時には周りに3人しか身内がいなかったので、自分の中で勝手にこの時の涙はカウントしないことにしたら、最終的に私は、一滴たりとも涙を流さなかったーということになったのである。
棺の中に花を入れる時はちょっとやばかったけれども、蓋さえ閉まってしまえばもう、その後の火葬場での出棺の儀とかお骨拾いとかは全然余裕だった。正直、悲しくもなんともなかったのである。

お骨拾いの時、火葬場の係の人が箸でのど仏を拾って台の上に置き、「そちらから見ますと仏様が座ってるように見えるでしょ?」と言った。

「見えねえよ」と思った。


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