あべのハルカスがオープンした日に、十三駅前の老舗飲屋街「ションベン横丁」が炎上した。
数年前、私は何度かションベン横丁で飲み歩いた。あの頃、私はあんまり幸せではなかった。ションベン横丁は、さすが「ションベン横丁」だけあって、あんまり幸せではない人間が救いを求めてどこからともなく集まってくる梁山泊を思わせた。捨てる神あれば拾う神ありだった。何を食っても大してうまくない店が立ち並んでいたが、狭い路地いっぱいに立ち込める強烈な人間臭が旨かった。嬉しかった。
あべのハルカスとションベン横丁ーこれも時代の流れなのだろうか。だとしたら、ちっとも嬉しくない流れだ。
手垢にまみれてベタベタの横丁が喧嘩腰に見上げていた世の中を、指紋の目立ちやすいペカペカの超高層ビルが涼しい顔をして見下ろしている。