強者どもが夢の跡~先輩編②~

ファンディ ☆☆☆☆☆
私より5つ年下の頭のハゲた中国人。背は低かったが、筋肉質な身体をしていて、目がクリッとしていた。私が最も仲良くしていた同僚。いつも陽気で、非常に優しい奴だった。口癖は「アカンで!」で、右腕には「竜」と一文字刺青があったが、よく見てみると刺青ではなくマジックで書いてあるだけだったのでアカンかった。昼食時、食堂のテレビでニュースを見ていたら、中国で大地震があって大勢の死者が出たとの報道があり、「ファンディ、中国えらいことになってるで!」と言ったら、至って冷静に「中国人何人おると思てんねん。死んだらええねん死んだら」という返事が返ってきて思わず笑ってしまった。それから、ファンディは毎週欠かさずロト6を買い続けていたがびた一文当たらなかった。そして、ハズレの紙を捨てずに大切に財布に保管していくものだから、財布の膨らみだけは1等を当てた人みたいになっていた。内線の電話が鳴り、「はい、浦山です」と浦山さんのモノマネをして出たら電話の相手が浦山さんだったこともある。また、ある日私は、ファンディの「ファンディ」と書かれた名札をこっそり「パンティ」に書き換えたのだが、ファンディはいっこうに気付かなかった。歯を食いしばって重い樹脂の袋を運ぶパンティ。全神経を指先に集中して直径1ミリほどのレンズをエアピンセットでひっくり返すパンティ。背後から同僚に忍び寄り、カンチョーを食らわせて喜ぶパンティ。浦山さんの指示を神妙な顔をして聞いているパンティ。自分がパンティであることに気付くやいなや「アカンで!」と叫んで私に飛び蹴りを食らわせてきたファンディ。

私が工場をクビになった日、ファンディもクビになった。一緒にエレベーターに乗って、一緒に工場を出て、工場の前にある立ち飲み屋でビールを飲んだ。


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