旅先から①

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親戚が居ることもあり、広島は尾道へやって来た。

「旅行をしろ。旅行を」と親父がよく言っていたが、「ちょっと伊丹を離れてみたいな」と考え始めた時、親父の言葉の意味をちょっとだけ理解できたような気がした。

それにしてもラーメン屋が多い。


かつて噴水の中心から

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例えば、昔より良い曲が書けるようになったが、昔ほど面白い曲が書けなくなった。

それなりに、自分なりに、社会的にしっかりした人間になろうと努力する中で、自分の中、散らかっていたからこそ面白かったものを、無理矢理に、中途半端に、整理整頓、片付けてしまったのかもしれない。

「誰が何と言おうが俺はこれが面白いと思うんだよなあ!」というのが湧き出てこない。

一体誰の目を気にしているのか。


ハロウィンの女王

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「自分は自分、他人(ひと)は他人」という確固たる姿勢について、信念について、微塵もブレない自我について、本当は他人に影響されやすく、へこみやすく、自我の弱い私には、常に身近に参考となる人が必要で…親父は死んでしまったけれど、私には、この人がいる。


男の目 女の目

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不思議な話ではあるが、男で、この人のことを「嫌いだ」と言い切れる人とは友達になれないと思う。

男は皆、この人のことが好きなはず。少なくとも、嫌いではないはずだ。

男の目には悲哀のようなものが見てとれるが、女の目にはただ下品なだけ。それが江頭2:50という男。
要は感性の問題であって、実際の性別を問わない。つまりは、この人に悲哀のようなものを見出せたら男で、見出せなかったら女なのだ。

多かれ少なかれ、大なり小なり、男の中にはこの人がいる。貴女の好きな人の中にも、貴女が認めようが認めまいが、この人がいる。

相当な極論だが、題材が題材。敬意を表して、曖昧な表現は避けさせていただく。


強者どもが夢の跡~前田さん外伝~

我々成形軍団の現場は工場の4階にあった。

休憩時間。前田さんは防塵服を脱ぐと現場を出て、疲れ切った身体を壁に擦り付けるようにして2階へ降りていった。極度に疲れたり、疲れたことによって仕事に嫌気が差したりすると、「考えさせてもらうわ…」と呟いて、全体重を壁にあずけるようにして階段を昇り降りするのが前田さんの癖だった。

2階へ降りてきた前田さんは、虚ろな顔をしてフラフラと歩き、飲み物の自販機、カップベンダーの前で立ち止まった。そして、お金を投入するとボタンを押し、少し身をかがめて小窓を覗き込んだ。

カップが落ちてこなかった。カップのないところにコーヒーが注がれた。

「注入終了!大変熱くなっておりますので注意してお取り下さい」の表示が点灯するのを見届けた前田さんはかがめた身体をゆっくりと起こして、「考えさせてもらうわ…」の捨て台詞もなく無言でポケットに手を突っ込んで1階へ降り、神崎川の堤防に向かった。

「この人、飛び込むんじゃないか?」と思った。


強者どもが夢の跡~ファンディ外伝~

秋。ちょうど今頃の、渇くように人恋しくなる時期のとある夕方。私とファンディは、工場の目と鼻の先にある神崎川の堤防に二人並んで座っていた。

ファンディは私に悩みを打ち明けていた。
ファンディには子供が二人いて、彼と同じ中国人の奥さんがいたのだが、その奥さんが非常に見栄っ張りで、ブランド志向が強く、高級な服を買ったり高級なレストランで食事をしたがったりするので、働いても働いてもお金が無いということだった。また、奥さんはファンディの為にもせっせと服を買ってきてくれるのだが、これがまたやたらと値の張るブランド物ばかりで、ファンディにしてみれば、買ってきてくれるから着ないわけにはいかないが、本音を言えば、こんなに高い服はいらない…ということだった。ファンディにしては珍しく、非常に暗い顔をしていた。本当に悩んでいたのである。

陽が沈むにつれ、かなり寒くなってきたので、我々は工場に戻り、2階の自販機で温かいコーヒーでも買って飲もうということになった。
工場の2階には、飲み物の自販機が2種類あった。缶の自販機と、紙コップの自販機、いわゆる「カップベンダー」があったのだが、我々はコーヒーやクリームの濃度を好みに合わせて調節でき、また、缶より40円安いカップベンダーのホットコーヒーを買うことにした。

先に私が買い、カップを取り出すと、続いてファンディが自販機にお金を投入した。なぜだかわからないが、カップベンダーというのは、カップが上から落ちてきて、カップに飲み物が注がれている様をジッと見つめてしまうものである。その時も、私とファンディはカップが落ちてきて、飲み物が注がれるのを小窓越しに見つめていた。ファンディは、ついさっきまで堤防でしていた話の内容が尾を引いており、少し暗い表情を浮かべ、虚ろな目をして小窓を覗き込んでいた。

カップが上下逆さまに落ちてきた。上になったカップの底に勢いよくコーヒーが注がれて虚しく飛び散った。ファンディは唖然として声も出せない。しばらくすると、ビーッと情けない音がして、小窓の右手にある「注入終了!大変熱くなっておりますので注意してお取り下さい」の表示が点灯。ファンディは恐る恐る小窓を開けて、逆さまになったコーヒーまみれのカップを「熱っ!」と言いながら取り出すと、上になったカップの底の、底上げの部分にわずかに残ったコーヒーをすすり飲んでこう呟いた。

「アカンで…」

私は笑うに笑えなかった…と言いたいところだが、実際は、床をのたうち回っていた。


強者どもが夢の跡~あとがき~

あの時、あの工場で出会った人たちについて記憶の限り文章に起こすというアイデアは、私の中に以前からあった。「忘れてしまうまえにいつか必ず」と、ずっと思っていた。そして今回、ようやく書き上げることができた。

我ながら「この記憶力は愛情の賜物だ」と思った。私の、あの人たちへの思い入れは、「愛情」と呼んで良いものだと思う。自分でも驚くほど、ありとあらゆることを覚えており、思い出すことに没頭していると、今まさにあの工場で、あの面々と働いているかのような錯覚を覚えた。

書き終えて気付いたことは、私は、決して人間嫌いなんかではないんだということだった。

彼らとは、いつかまたどこかで再会したい。
一人でも多く再会したい。

寺方さんを除いて(笑)


強者どもが夢の跡~後輩編③~

三木くん ☆☆☆
背が低く、メガネを掛けており、常に謙虚で大人しかったが、性格の芯の部分に、毒と強さを感じさせる男だった。成形一の働き者で、よく仕事ができて皆からの信頼も厚く、仕事が無いなら無いでほうきとちりとりを持って掃除をし続けた。そして、そんな日頃の姿勢を神様はちゃんと見ているもので、クビになる直前、彼はロト6で55万円当てた。工場からの支給ではなかったが、退職金が出たのは彼だけである。

江口さん ☆☆☆☆
成形の中の「金型」という部門で働いていたスレンダーな女の人で、私より若いのは確かだが、どこかミステリアスで、年齢不詳だった。成形で働く女の人は、ブサイクで性格の悪い大越さんと江口さんだけだったから、決してブサイクではないし性格の良い江口さんはおのずと成形のアイドル的存在となった。実におっとりとした性格の人で、男連中は疲れると皆、江口さんとの談笑に癒しを求めた。まさに、成形のオアシスだったのである。防塵服を脱ぐ時、腰まで伸ばした髪がバサーッとなって、それが、戦闘機から降りてヘルメットを脱ぐ米国の女性パイロットみたいでカッコ良かった。

峠くん ☆☆
ホモみたいで気持ち悪かったから、可能な限り近づかないようにしていた。

中村くん ☆☆☆☆
福岡くん、与古田くんと同じく、高校を出たばかりの子だった。肌が白くてなよっとしてて、性格的にも雰囲気的にもふにゃふにゃで、闘争心が無いというか責任感が無いというか軽薄というか…そう、強烈にチャラかった。しかし、笑いのセンスには目を見張るものがあって、同い年の与古田くんなんかはかなり影響されていた。彼の笑いはとてもシュールだった。「自分だけがわかるであろう笑い」のようなものを追求していた。シュールな笑いについては、私も「伊丹最北端の至宝」と呼ばれた男。負けじと壮絶な火花を散らせた。彼には悪いが、相手が悪かったな。

寺方さん ☆☆☆☆☆
遂に、以前にも当ブログで紹介したことのあるレジェンドの登場である。彼こそ、ミスター成形。ミスター残念。駄目人間の縮図。腐った十字架を背負いし男である。
ガリガリにやせたししゃもと横山やすしを掛け合わせたような風貌で、歯は総じて黒く、黄色い汗をかき、メガネのフレームの付け根の部分をセロテープで止めており、止めてはいるもののしっかりと固定されていないからゆがんで、常に「殴られた人」みたいになっており、小刻みな引き笑いが下品で、同僚に貸してもらった80円を給料日まで返せなかった。また、ズル休みをするたびに親兄弟を殺し、果ては親戚、友人までを殺したが、寺方さん自身はいつまで経っても死んでくれなかった。口癖のように「俺を本気で怒らせたら血まみれやで」などと言っていたが、皆、裏で「寺方さんが血まみれになるんやろな」と言っていた。派遣社員全員がクビになった後、飲み会が催されたが、寺方さんだけ呼ばれなかった。


強者どもが夢の跡~後輩編②~

井上くん ☆
成形一の男前と言われていたが、クール過ぎて無口だったのでつまらなかった。

小林さん ☆
仲良くはしていたが、ほとんど印象に残っていない。ひょろっと背の高いヤンキー崩れみたいな人だったという記憶しかない。

伊藤さん ☆☆☆☆☆
矢野・兵動の矢野さんがメガネを掛けて髭を生やしたような風貌で、雰囲気はビーバップハイスクールの下っ端のヤンキーみたいだったが身体が弱かった。成形一の愛されキャラであり、最強の癒し系だった。声が甲高くて、いつもチョケていた。相当ないじられキャラで、先輩後輩を問わず常にいじられていたが、いじられればいじられるほどに嬉々として、彼の周りにはいつも温かい笑いがあった。新世界のジャンジャン横丁界隈に住んでいたにも関わらず酒が一滴も飲めなかった。私が、いつかどこかで再会できることを心から祈っている人間のうちの一人である。
(「まえがき」に添えた、防塵服を着た私の写真は伊藤さんが撮ってくれたものである)

与古田くん ☆☆☆☆
茶髪のロン毛。ギリシャ彫刻のような彫りの深い顔立ち。高校を出たばかりのヤンキーで、ドラマーだったから、音楽学校に行く資金を貯めるために工場に来たが、猛烈に働いてお金を稼いでいるうちに彼女ができて、一人暮らしを始めて、夢を見失ってしまった男。現場で「誰が一番男前か」という話になった時、皆は井上くんが一番の男前だと言ったが、私は与古田くんが一番の男前だと言って譲らなかった。あからさまなヤンキーだったが、本当によく働いたし、私なんかよりずっと仕事ができた。そして、私のようなグズグズな先輩に対しても非常に礼儀正しかった。

亀川さん ☆☆☆☆☆
凶悪な武蔵丸みたいな風貌で、入ってきた時から群を抜いて怪しかった。私が仕事を教えたのだが、わずか3日でタメ口をきくようになり、4日目には私に指示を出すまでになった。結果、誰にも相手にされず、ハミゴにされてすぐいなくなったが、後日、与古田くんから「和田さん!亀川さん、コンビニでエロ本一冊買うのにごっつ悩んでましたよ!」という果てしなくどうでもいい報告を受けて死ぬほど笑った。

中山さん ☆
メガネを掛けたぽっちゃりとした人で、ブルース溝脇さんと共に設備を担当していた。真面目で、穏やかで、あの工場で働いていることに違和感のようなものさえ感じさせる人だった。私は、工場をクビになった後、介護職に転向し、正雀の老人施設で働き始めたのだが、働き始めたばかりの時、ロッカーで服を着替えていると見覚えのある人が入ってきた。中山さんだった。