強者どもが夢の跡~前田さん外伝~

我々成形軍団の現場は工場の4階にあった。

休憩時間。前田さんは防塵服を脱ぐと現場を出て、疲れ切った身体を壁に擦り付けるようにして2階へ降りていった。極度に疲れたり、疲れたことによって仕事に嫌気が差したりすると、「考えさせてもらうわ…」と呟いて、全体重を壁にあずけるようにして階段を昇り降りするのが前田さんの癖だった。

2階へ降りてきた前田さんは、虚ろな顔をしてフラフラと歩き、飲み物の自販機、カップベンダーの前で立ち止まった。そして、お金を投入するとボタンを押し、少し身をかがめて小窓を覗き込んだ。

カップが落ちてこなかった。カップのないところにコーヒーが注がれた。

「注入終了!大変熱くなっておりますので注意してお取り下さい」の表示が点灯するのを見届けた前田さんはかがめた身体をゆっくりと起こして、「考えさせてもらうわ…」の捨て台詞もなく無言でポケットに手を突っ込んで1階へ降り、神崎川の堤防に向かった。

「この人、飛び込むんじゃないか?」と思った。


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