自信を支える劣等感

例えば、これと比べてどうかということ。

俺は、これと比べてもなお「良い」と思えるものだけを「良い」と言うし、俺自身は、これと比べてもなお「良い」と思えるものだけを作っていきたいと思っている。

だから、俺がその辺のアーティストの音楽を簡単に気に入るわけがないし、俺がその辺のアーティストに負けるわけがない。なにしろハードルが高いんだから。

その辺のアーティストに対しては優越感があり、絶対に勝てるという自信がある。でも、自分の中に「ハードル」として君臨しているアーティストに対しては、劣等感とも言える強烈な畏敬の念があって、「攻撃は最大の防御なり」とばかり、ただひたすらに攻め続けることによって何とか立っている、踏みとどまっている…というのが正直なところ。

ロックやってて、ビートルズが好きとか、ストーンズが好きとか、オアシスが好きとかって、よほどの覚悟がないと言えるものではないと思う。

俺、常に自信家ってわけじゃないんでございますよ。っていうか、俺としては、ある意味、俺ほど自信のないアーティストもいないんじゃないか?って思ってる。


正しいハートの使い方

ドラマーがいて、ベーシストがいて、ギターの音が歪んでるというだけの理由で「ロックバンド」を名乗ってる奴らが掃いて捨てるほどいる。

怒りの「い」の字もないくせに。

危機感の「き」の字も、飢餓感の「き」の字もないくせに。

死ねばいいのに♥️


自信

何事も集客力がついてからだと思っていた。身体が大きくなるとともに服のサイズを大きくするのと同じ理屈で。でも、集客力がつく前に自信がついて話は変わった。

発言や行動の幅を決めるのは自信だ。それはわかっていた。ただ、「集客力を自信に結びつけていく」という、よくよく考えてみれば他力本願染みた、受け身な流れを念頭に置き過ぎていた。

逆だ。

本当は、自信を集客力に結びつけていくべきで、自信はきちんと音楽と向き合ってさえいれば集客力とは無関係についていく。そして、自信があれば、集客力の無さなんてさほど気にならない。「自分のせいではない」と胸を張って言えるからだ。

何事も上から目線でないと駄目だ。下から目線じゃ駄目だ。夢というのは、星や月のように、見上げている内は叶わない。

「元気があれば何でもできる」じゃないけど、自信があれば何でもできる。「ポジティブな姿勢が不可能を可能にしていく」なんて歌ってやがるのは誰だ?俺だ。じゃ、「ポジティブな姿勢」ってやつはどこから来るんだ?

自信だ。


光明

本格的に音楽をやり始めて20年になるけど、ヴォーカリストとして、ギタリストとして、パフォーマーとして、自信を持てるようになったのは今年。それも夏以降のことで、それ以前は全く自信がなかったことに今更ながら気が付いた。

誰も信じてくれないだろうけど、実は全く自信がなかった。常に迷いがあって、不安だった。

そんなんでよく20年もやってこれたなと思われる方もあろう。でも、やってこれたのだ。理由は簡単。ソングライターとしては、いまだかつて、誰にも負けたと思ったことがない。ソングライターとしての自信だけは、一度たりともブレたことがなかったからだ。

ここまで、俺が鳴かず飛ばずで来たのは、曲は良くてもパフォーマーとして駄目だったから。

良い曲を書ける人間がパフォーマーとして覚醒したらどうなると思う?

あなたのご想像にお任せする…っていうか、想像してる暇があったらライヴに来い!!


過小評価からの脱却

俺の音楽、本当に良い音楽になった。

足し算ではなく、引き算の積み重ね。ありとあらゆる無駄を省いて、これ以上削ったら血が出るというところまで削って、芯の部分を剥き出しにしたら、誰もやったことのない、誰も聴いたことのない、俺にしかできない、新しい音楽が生まれた。その証拠に、もう誰も、「バンドで観てみたい」とは言わなくなった。

今年9月以降のライヴ。それぞれに『綺麗な動物』『秋の遠征』『冬の帰還』と名付けたライヴのいずれかに足を運んでくれた人は驚いたと思う。「化けた!」ってなもんだろう。だから、さぞかしライヴハウスからも高く評価されてきてるんだろうなとお思いだろう。でもね、残念ながらそうではない。相変わらずの低空飛行。バンド時代から数えるとそれなりの年月、それなりに経験を積んできたから、肌で感じるものがある。自分がどの程度評価されているのかということくらい、考える前にわかる。

自信のない内は大人しくしてる。自信がないのは自分に何か問題があるからで、他人のせいにはしない。改善点を見つけて、改善して、自信をつけていく。でも、無理矢理でないと改善点が見つからないくらい自信がついたら、大人しくはしていない。貪欲に、自信に見合う評価を求めるのみ。

目覚ましのアラームのように、プライドが声を上げ始めた。「お前、おのれを安売りし始めとんぞ!」と。そろそろ、自分の音楽を正しく評価してくれる場所を探し始めるべきかなと思っている。すでに俺の音楽を高く買ってくれていて、ライヴを楽しみにしてくれている人たちの期待を無下にしない場所を。


鬼才の孤独

トイレで手を洗っていたところ、ガリッガリに痩せたおじいちゃんが入ってきて、小便器の前に立った。

おじいちゃんは、ズボンのファスナーを下ろし、ちんこをつまんだであろうタイミングでこう呟いた。

「ボク、お豆腐嫌いやねん…」

私はハッとして周りを見回した。私とおじいちゃんの他には誰もいなかった。そして、おじいちゃんは私の存在に気が付いていない様子。つまり、完全なる独り言。

誰かに理解してもらいたいわけではない。もしくは、何度か理解を乞うたが理解してもらえなかったので理解してもらうことを諦めたが、トイレという精神の緩慢を許してしまう場所に於いて吐露してしまった悲痛な心情。しかしながら、「ワシ」ではなく「ボク」と言っているあたりに、聞く者の同情心に訴えかけている風が見て取れ、また、憎しみの対象であるはずの豆腐の頭に「お」を冠することによって、「豆腐は自分にとって脅威とも言える目上の存在であり、自分はその不可避な圧力に怯える被害者である」というニュアンスを滲ませてあることは明白で、となると、実はトイレに入ってくる段階ですでに私の存在に気付いていたのではないか?という疑念が生じてくるのだが、いずれにせよ、おじいちゃんがおちんちんをつまみながらお豆腐が嫌いだと呟いている姿は時代の先を行き過ぎた前衛的極まる笑いの形であって、それを私以外の人間に理解せよと言うのは無茶というものであるが、偶然にもそこに居合わせたのが私だったのだから、おじいちゃんは「もっている」と言える。

おちんちんを。


完成

昨日、マスタリング作業を終えたDr.Fと合流。Dr.のスタジオで最終確認をして、遂に『爆弾』『ROCK&REISHI(remaster)』の2枚が完成した。

2枚とも、極限まで音圧を上げてあり、えげつないことになっている。

『爆弾』はまさに爆弾である。爆弾としか言いようがない。ギターの音がデカい。私の声もデカい。デカ過ぎて音割れし倒している。所々、何言ってんだかわからない。そこへライヴ当日、PAが深めにかけたリバーブが絡んでおり、そんなキチガイ染みた音の塊をDr.がさらに分厚くしてくれているものだからパンクを通り越してグランジな音になっている。『爆弾』の音作りについて私がDr.に言ったのはただ一つ、「さだまさしのファンが吐くような音にして欲しい」ということだったのだが、まさにそんな仕上がり。「アコギ一本で音楽やってる」と聞いてこの音をイメージする人は世界中探してもいないと思う。音楽に自分の中の何かを破壊してもらうことを願っている人に是非聴いてもらいたい。

『爆弾』がグランジだとすると、『ROCK&REISHI(remaster)』はパンク。『爆弾』よりシュッとしていて聴きやすい。客の反応も全然違う。『爆弾』は黙ってジッと聴き入っている感じで緊張感があるんだけど、『R&R』はタイトル通りロックンロールのライヴに来ている客の反応で賑やか。同じセットリストのライヴを同じライヴハウスで録ったとは思えないくらい別物に仕上がっている。だから、私の中では音触的に、『爆弾』がライヴ盤で、『R&R』はスタジオ盤だと捉えている。

『爆弾』には、ありとあらゆるロックを聴いてきて、ちょっとやそっと刺激的なくらいでは何とも思わない、物足りないと感じるロック馬鹿を唸らせる力がある。一方、『R&R』は、音楽好きではあるが特にロックが好きというわけではない人をロックしか聴かない残念な人間に変えてしまう力がある。

この2枚を聴けば、私が何かを起こし得る人間だということに気付いてもらえると思う。そして、その影には、Dr.Fという、納得のいく音を作るためには一切労を惜しまない、敏腕にしてアナーキーなエンジニアの存在があることを覚えておいて頂きたい。


レイシ・ギャラガーの恋文

この度、リアムの『AS YOU WERE』を私の「世界で一番好きなアルバム」に認定した。どこを切ってもリアム・ギャラガーな傑作だ。手に入れてからというもの、毎日欠かさず聴いている。仕事に行く時も、仕事から帰ってきてビールを飲む時も、寝る時も。聴いていない時でさえ常に頭の中で鳴っている。間違いなく過去最高にヘビーローテションな一枚。CDも聴き過ぎるとレコードのように擦り切れることがあるという話を聞いたことがあるが、これは絶対擦り切れると思う。

一方、ノエルのアルバムはまだ手に入れていない。どうせ良いに決まっているが、今回のノエルのは美メロを封印した「問題作」で、美メロ満載で真正面からロックンロールなリアムのより良いわけがないので、後の楽しみに取っておくことにした。

「問題作」ながら、ノエルのアルバムは当然の如くに全英1位になった。オアシスの1stから数えると、ノエルは計10枚のアルバムを発表したことになるが、10枚が10枚とも全英1位。凄いとしか言いようがない。また、最新作の初週セールスは78000枚。CDが売れない昨今、5000枚売れれば1位になることもある御時世にあり得ない数字。しかし、リアムの『AS YOU WERE』は更に凄い。初週セールス103000枚。25000枚もの差をつけて、弟が初めて兄貴に勝ったのである。

と、この記事を書いて思ったのは、やっぱりオアシスって凄いバンドだったんだな…ということ。でも、今や、再結成を全く望んでいない自分がいる。兄弟が別々に、競争心を燃やして、素晴らしいアルバムを出してくれることの方が有り難い。

ちなみに、リアムは先日、英国で「ゴッドライク・ジーニアス(神がかった天才)賞」の受賞が決定した。