水仙

「何の為の、誰の為の芸術なんだろう。」答えを求めるでもなく黙念と考えながら、病院までの路を急いだ。

時間に余裕を持って家を出たはずが、遅れかねなかった。

待合室には、私の他にもう一人、若い女性がいて、私のものとは比べ物にならないくらい重い影を背負っており、立っている時も、座っている時も、顔を挙げることはなかった。

病院を出ると私は、真っ直ぐ行けばそのまま我が家の裏手へ出る川の堤防を、後ろ手に組んで歩いたが、その時、川の流れに沿って植えられた水仙の花が、太陽の光を浴びて嬉々として揺れていたのを、鮮明に覚えている。

きっと、忘れることはない。


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