姫「何故、わたくしがこのような目に遭わないといけないのですか?わたくしが何か、悪いことでもいたしましたか?」
蜘蛛「それはまた人聞きの悪い。あなたが勝手に引っ掛かって来たんじゃありませんか。私がこうやって巣を拵えるのは、これは、これが、私の仕事、神から与えられた天職だからですよ。」
姫「じゃ、逃してくださるのね?」
蜘蛛「いや、それは出来ません。」
姫「何故?」
蜘蛛「私は、捕まえる方法は知っていても、逃す方法を知らないからです。」
姫「では、さっさとお召し上がりなさい。わたくしも姫です。決してジタバタなどいたしませんから。」
蜘蛛「残念ながら、それもできそうにありません。」
姫「え?何故?」
蜘蛛「あなたを、こうやって、ずっと、眺めていたいからです。」
姫「それでは、わたくしはこのまま、死ぬのを待つしかないのですか?」
蜘蛛「いや、決して死なせはしません。食べ物は私が、というか、この巣が勝手に、随時用意しますし、お風呂は、ほら、天からシャワーが降ってくるではありませんか。トイレは…ね、ほら、私もあなたも、お互い虫なんですから。」
姫「でも、わたくしは、確実に年老いていきますよ。そのうち必ず、あなたの鑑賞に耐えない姿になりますよ。」
蜘蛛「その点は大丈夫です。あなた同様、私も年老いて、そのうち必ず死にますから。」
姫「…では、わたくしを、殺してはいただけないでしょうか?召し上がる必要はございません。ただ、無傷で、殺して、そうして、ずっと、そうやって眺めてらっしゃったらよろしいんじゃないかしら?」
蜘蛛「ですから先程も申し上げた通り、私は、捕まえる方法しか知らないのです。捕まえて、食べて…他のことは何も知らないのです。」
姫「…。」
蜘蛛「…もし、どうしても死にたいとおっしゃるのなら、ご自分で舌を噛み切られてはいかがですか?」
姫「…。」
蜘蛛「どうなさいました?」
姫「でも、わたくしには舌が…。」
蜘蛛「舌が、無いのですか?」
姫「返していただけますか?」