まず、針に糸を通すかのような緻密にして的確なヴィジョンが閃く。それから、焦点をちょっとずらす。絶妙にちょ〜っとだけずらす。意味合いをちょっと壊す。絶妙にちょ〜っとだけ壊す。
この「ちょっと」や「ちょ〜っと」が、我々の耳に届く頃には「ちょっと」や「ちょ〜っと」ではなくなっていて、さらに頭に届くころには、胃の中でカプセル型の薬がパアーンと炸裂するみたいなことになって、ドーン!と爆発的な笑いが起こる。
ドーン!の前に0.01秒くらいの沈黙があって、これが「緊張」で、その後に「緩和」がドーン!と来て、要するに「緊張と緩和」という笑いの基本と呼ばれる形にはしっかり乗っ取っていながらも、後味としては、基本臭が微塵も残らず、大きな斬新味だけが残るんだから凄い。
「ど、どうも。お、お初にお目にかかります。わ、和田一憩と申します」
「あ、どうも。松本です」
今、心から逢ってみたい人。言葉の魔術師―松本人志。