蓋の裏

私は、とても貧乏な家に生まれました。というのも、私の親父が実にストイックな絵描きでございまして、私がまだ幼児期の頃には、全く働いていない時期さえございました。本当に、無一文だったのです。

非常にユーモラスな親父なので、私の心自体が貧困に喘いだことは一度たりともございませんでしたが。

そんな中、夏、たまにアイスクリームを食べられるという段になると、母親がよくこう言ってました。

「この蓋の裏にくっついてるのんが一番美味しいんやで!」

蓋の裏―私の発想はいわば、いつも蓋の裏から発生せらるるものでございまして、本体から発生せられたものではございません。

でも、めちゃくちゃ美味いでしょ?


コメントする

メールアドレスが公開されることはありません。