歩くコント

昔、大阪の神崎川沿いにあるレンズ工場で働いていた時、数ヵ月先輩に当たる同僚が、偉そうにパーラメントを吹かしながらこんなことを言った。

「俺はな、仕事、できひんのとちゃうねん。やらへんだけ。わかる?」

彼はとても背の低い、天パ金髪オールバックの、「女に困ったことがない。」が口癖の、自称「資〇堂の社長の息子」で、しょっちゅう仕事をズル休みしていた。そしてたまに、「社会勉強。」と呟いて出勤してくると、根拠なく自信満々で、私のような後輩に対しては非常に態度がデカかったが、上司連中に対しては異常に腰が低かった。

「俺はな、仕事、できひんのとちゃうねん。やらへんだけ。わかる?」

わからねえよと思った。だいたい私は、できひん人間の中でも特にできひん人間が、やらへん人間だと思っているから、笑いを堪えるのに大変難儀した。

私にとって彼は、『歩くコント』以外の何物でもなかった。


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