秋。ちょうど今頃の、渇くように人恋しくなる時期のとある夕方。私とファンディは、工場の目と鼻の先にある神崎川の堤防に二人並んで座っていた。
ファンディは私に悩みを打ち明けていた。
ファンディには子供が二人いて、彼と同じ中国人の奥さんがいたのだが、その奥さんが非常に見栄っ張りで、ブランド志向が強く、高級な服を買ったり高級なレストランで食事をしたがったりするので、働いても働いてもお金が無いということだった。また、奥さんはファンディの為にもせっせと服を買ってきてくれるのだが、これがまたやたらと値の張るブランド物ばかりで、ファンディにしてみれば、買ってきてくれるから着ないわけにはいかないが、本音を言えば、こんなに高い服はいらない…ということだった。ファンディにしては珍しく、非常に暗い顔をしていた。本当に悩んでいたのである。
陽が沈むにつれ、かなり寒くなってきたので、我々は工場に戻り、2階の自販機で温かいコーヒーでも買って飲もうということになった。
工場の2階には、飲み物の自販機が2種類あった。缶の自販機と、紙コップの自販機、いわゆる「カップベンダー」があったのだが、我々はコーヒーやクリームの濃度を好みに合わせて調節でき、また、缶より40円安いカップベンダーのホットコーヒーを買うことにした。
先に私が買い、カップを取り出すと、続いてファンディが自販機にお金を投入した。なぜだかわからないが、カップベンダーというのは、カップが上から落ちてきて、カップに飲み物が注がれている様をジッと見つめてしまうものである。その時も、私とファンディはカップが落ちてきて、飲み物が注がれるのを小窓越しに見つめていた。ファンディは、ついさっきまで堤防でしていた話の内容が尾を引いており、少し暗い表情を浮かべ、虚ろな目をして小窓を覗き込んでいた。
⁉
カップが上下逆さまに落ちてきた。上になったカップの底に勢いよくコーヒーが注がれて虚しく飛び散った。ファンディは唖然として声も出せない。しばらくすると、ビーッと情けない音がして、小窓の右手にある「注入終了!大変熱くなっておりますので注意してお取り下さい」の表示が点灯。ファンディは恐る恐る小窓を開けて、逆さまになったコーヒーまみれのカップを「熱っ!」と言いながら取り出すと、上になったカップの底の、底上げの部分にわずかに残ったコーヒーをすすり飲んでこう呟いた。
「アカンで…」
私は笑うに笑えなかった…と言いたいところだが、実際は、床をのたうち回っていた。