この商店街は割と長く、アーケードの途絶える広場のような所を中継地点として、二つに分かれている。神戸の高架下のように、奥へ行けば行くほど暗くなり、人通りが減って、肌寒く寂しい感じになる。その、肌寒く寂しい感じの方の商店街の珈琲屋の前で我々は立ち止まった。
奥さんが「豆買ってくる」と言ったので、私は店の前の喫煙所で待つことにし、煙草に火を付けて、イスに腰掛けた。奥さんが店のドアを開けて、店に入った。そして、ドアが閉まると同時に、突然、商店街全体にかなりデカい音で五輪真弓の「恋人よ」が流れ始めた。あの殺人的に絶望的なピアノの調べが鳴り響き始めたのである。
アカン…これはアカン!アカンやつや!気付いた時には遅く、私の肩は膝のあたりまで落ちていた。
別に失恋をしたわけでもないのに半泣きの私が顔を上げると、真正面、道路を隔てた向こう側に細い石階段があり、その上に人気のない寺が見えた。
怨念の塊のような顔をした巨大な真弓が手招きをしていた。