Monthly Archives: 10月 2015

男の目 女の目

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不思議な話ではあるが、男で、この人のことを「嫌いだ」と言い切れる人とは友達になれないと思う。

男は皆、この人のことが好きなはず。少なくとも、嫌いではないはずだ。

男の目には悲哀のようなものが見てとれるが、女の目にはただ下品なだけ。それが江頭2:50という男。
要は感性の問題であって、実際の性別を問わない。つまりは、この人に悲哀のようなものを見出せたら男で、見出せなかったら女なのだ。

多かれ少なかれ、大なり小なり、男の中にはこの人がいる。貴女の好きな人の中にも、貴女が認めようが認めまいが、この人がいる。

相当な極論だが、題材が題材。敬意を表して、曖昧な表現は避けさせていただく。


強者どもが夢の跡~前田さん外伝~

我々成形軍団の現場は工場の4階にあった。

休憩時間。前田さんは防塵服を脱ぐと現場を出て、疲れ切った身体を壁に擦り付けるようにして2階へ降りていった。極度に疲れたり、疲れたことによって仕事に嫌気が差したりすると、「考えさせてもらうわ…」と呟いて、全体重を壁にあずけるようにして階段を昇り降りするのが前田さんの癖だった。

2階へ降りてきた前田さんは、虚ろな顔をしてフラフラと歩き、飲み物の自販機、カップベンダーの前で立ち止まった。そして、お金を投入するとボタンを押し、少し身をかがめて小窓を覗き込んだ。

カップが落ちてこなかった。カップのないところにコーヒーが注がれた。

「注入終了!大変熱くなっておりますので注意してお取り下さい」の表示が点灯するのを見届けた前田さんはかがめた身体をゆっくりと起こして、「考えさせてもらうわ…」の捨て台詞もなく無言でポケットに手を突っ込んで1階へ降り、神崎川の堤防に向かった。

「この人、飛び込むんじゃないか?」と思った。


強者どもが夢の跡~ファンディ外伝~

秋。ちょうど今頃の、渇くように人恋しくなる時期のとある夕方。私とファンディは、工場の目と鼻の先にある神崎川の堤防に二人並んで座っていた。

ファンディは私に悩みを打ち明けていた。
ファンディには子供が二人いて、彼と同じ中国人の奥さんがいたのだが、その奥さんが非常に見栄っ張りで、ブランド志向が強く、高級な服を買ったり高級なレストランで食事をしたがったりするので、働いても働いてもお金が無いということだった。また、奥さんはファンディの為にもせっせと服を買ってきてくれるのだが、これがまたやたらと値の張るブランド物ばかりで、ファンディにしてみれば、買ってきてくれるから着ないわけにはいかないが、本音を言えば、こんなに高い服はいらない…ということだった。ファンディにしては珍しく、非常に暗い顔をしていた。本当に悩んでいたのである。

陽が沈むにつれ、かなり寒くなってきたので、我々は工場に戻り、2階の自販機で温かいコーヒーでも買って飲もうということになった。
工場の2階には、飲み物の自販機が2種類あった。缶の自販機と、紙コップの自販機、いわゆる「カップベンダー」があったのだが、我々はコーヒーやクリームの濃度を好みに合わせて調節でき、また、缶より40円安いカップベンダーのホットコーヒーを買うことにした。

先に私が買い、カップを取り出すと、続いてファンディが自販機にお金を投入した。なぜだかわからないが、カップベンダーというのは、カップが上から落ちてきて、カップに飲み物が注がれている様をジッと見つめてしまうものである。その時も、私とファンディはカップが落ちてきて、飲み物が注がれるのを小窓越しに見つめていた。ファンディは、ついさっきまで堤防でしていた話の内容が尾を引いており、少し暗い表情を浮かべ、虚ろな目をして小窓を覗き込んでいた。

カップが上下逆さまに落ちてきた。上になったカップの底に勢いよくコーヒーが注がれて虚しく飛び散った。ファンディは唖然として声も出せない。しばらくすると、ビーッと情けない音がして、小窓の右手にある「注入終了!大変熱くなっておりますので注意してお取り下さい」の表示が点灯。ファンディは恐る恐る小窓を開けて、逆さまになったコーヒーまみれのカップを「熱っ!」と言いながら取り出すと、上になったカップの底の、底上げの部分にわずかに残ったコーヒーをすすり飲んでこう呟いた。

「アカンで…」

私は笑うに笑えなかった…と言いたいところだが、実際は、床をのたうち回っていた。


強者どもが夢の跡~あとがき~

あの時、あの工場で出会った人たちについて記憶の限り文章に起こすというアイデアは、私の中に以前からあった。「忘れてしまうまえにいつか必ず」と、ずっと思っていた。そして今回、ようやく書き上げることができた。

我ながら「この記憶力は愛情の賜物だ」と思った。私の、あの人たちへの思い入れは、「愛情」と呼んで良いものだと思う。自分でも驚くほど、ありとあらゆることを覚えており、思い出すことに没頭していると、今まさにあの工場で、あの面々と働いているかのような錯覚を覚えた。

書き終えて気付いたことは、私は、決して人間嫌いなんかではないんだということだった。

彼らとは、いつかまたどこかで再会したい。
一人でも多く再会したい。

寺方さんを除いて(笑)


強者どもが夢の跡~後輩編③~

三木くん ☆☆☆
背が低く、メガネを掛けており、常に謙虚で大人しかったが、性格の芯の部分に、毒と強さを感じさせる男だった。成形一の働き者で、よく仕事ができて皆からの信頼も厚く、仕事が無いなら無いでほうきとちりとりを持って掃除をし続けた。そして、そんな日頃の姿勢を神様はちゃんと見ているもので、クビになる直前、彼はロト6で55万円当てた。工場からの支給ではなかったが、退職金が出たのは彼だけである。

江口さん ☆☆☆☆
成形の中の「金型」という部門で働いていたスレンダーな女の人で、私より若いのは確かだが、どこかミステリアスで、年齢不詳だった。成形で働く女の人は、ブサイクで性格の悪い大越さんと江口さんだけだったから、決してブサイクではないし性格の良い江口さんはおのずと成形のアイドル的存在となった。実におっとりとした性格の人で、男連中は疲れると皆、江口さんとの談笑に癒しを求めた。まさに、成形のオアシスだったのである。防塵服を脱ぐ時、腰まで伸ばした髪がバサーッとなって、それが、戦闘機から降りてヘルメットを脱ぐ米国の女性パイロットみたいでカッコ良かった。

峠くん ☆☆
ホモみたいで気持ち悪かったから、可能な限り近づかないようにしていた。

中村くん ☆☆☆☆
福岡くん、与古田くんと同じく、高校を出たばかりの子だった。肌が白くてなよっとしてて、性格的にも雰囲気的にもふにゃふにゃで、闘争心が無いというか責任感が無いというか軽薄というか…そう、強烈にチャラかった。しかし、笑いのセンスには目を見張るものがあって、同い年の与古田くんなんかはかなり影響されていた。彼の笑いはとてもシュールだった。「自分だけがわかるであろう笑い」のようなものを追求していた。シュールな笑いについては、私も「伊丹最北端の至宝」と呼ばれた男。負けじと壮絶な火花を散らせた。彼には悪いが、相手が悪かったな。

寺方さん ☆☆☆☆☆
遂に、以前にも当ブログで紹介したことのあるレジェンドの登場である。彼こそ、ミスター成形。ミスター残念。駄目人間の縮図。腐った十字架を背負いし男である。
ガリガリにやせたししゃもと横山やすしを掛け合わせたような風貌で、歯は総じて黒く、黄色い汗をかき、メガネのフレームの付け根の部分をセロテープで止めており、止めてはいるもののしっかりと固定されていないからゆがんで、常に「殴られた人」みたいになっており、小刻みな引き笑いが下品で、同僚に貸してもらった80円を給料日まで返せなかった。また、ズル休みをするたびに親兄弟を殺し、果ては親戚、友人までを殺したが、寺方さん自身はいつまで経っても死んでくれなかった。口癖のように「俺を本気で怒らせたら血まみれやで」などと言っていたが、皆、裏で「寺方さんが血まみれになるんやろな」と言っていた。派遣社員全員がクビになった後、飲み会が催されたが、寺方さんだけ呼ばれなかった。


強者どもが夢の跡~後輩編②~

井上くん ☆
成形一の男前と言われていたが、クール過ぎて無口だったのでつまらなかった。

小林さん ☆
仲良くはしていたが、ほとんど印象に残っていない。ひょろっと背の高いヤンキー崩れみたいな人だったという記憶しかない。

伊藤さん ☆☆☆☆☆
矢野・兵動の矢野さんがメガネを掛けて髭を生やしたような風貌で、雰囲気はビーバップハイスクールの下っ端のヤンキーみたいだったが身体が弱かった。成形一の愛されキャラであり、最強の癒し系だった。声が甲高くて、いつもチョケていた。相当ないじられキャラで、先輩後輩を問わず常にいじられていたが、いじられればいじられるほどに嬉々として、彼の周りにはいつも温かい笑いがあった。新世界のジャンジャン横丁界隈に住んでいたにも関わらず酒が一滴も飲めなかった。私が、いつかどこかで再会できることを心から祈っている人間のうちの一人である。
(「まえがき」に添えた、防塵服を着た私の写真は伊藤さんが撮ってくれたものである)

与古田くん ☆☆☆☆
茶髪のロン毛。ギリシャ彫刻のような彫りの深い顔立ち。高校を出たばかりのヤンキーで、ドラマーだったから、音楽学校に行く資金を貯めるために工場に来たが、猛烈に働いてお金を稼いでいるうちに彼女ができて、一人暮らしを始めて、夢を見失ってしまった男。現場で「誰が一番男前か」という話になった時、皆は井上くんが一番の男前だと言ったが、私は与古田くんが一番の男前だと言って譲らなかった。あからさまなヤンキーだったが、本当によく働いたし、私なんかよりずっと仕事ができた。そして、私のようなグズグズな先輩に対しても非常に礼儀正しかった。

亀川さん ☆☆☆☆☆
凶悪な武蔵丸みたいな風貌で、入ってきた時から群を抜いて怪しかった。私が仕事を教えたのだが、わずか3日でタメ口をきくようになり、4日目には私に指示を出すまでになった。結果、誰にも相手にされず、ハミゴにされてすぐいなくなったが、後日、与古田くんから「和田さん!亀川さん、コンビニでエロ本一冊買うのにごっつ悩んでましたよ!」という果てしなくどうでもいい報告を受けて死ぬほど笑った。

中山さん ☆
メガネを掛けたぽっちゃりとした人で、ブルース溝脇さんと共に設備を担当していた。真面目で、穏やかで、あの工場で働いていることに違和感のようなものさえ感じさせる人だった。私は、工場をクビになった後、介護職に転向し、正雀の老人施設で働き始めたのだが、働き始めたばかりの時、ロッカーで服を着替えていると見覚えのある人が入ってきた。中山さんだった。


強者どもが夢の跡~後輩編①~

北村さん ☆☆☆
私より5つほど歳上で、私の3週間後に工場にやって来た。ゴツい身体で背が高く、ちょっとしゃくれていたがよく見ると武士のような男らしい顔をしていた。一匹狼的な気質があり、少し気難しいところもあったが、仲良くなると実によく笑う良い人だった。佐久間さんが社員になり、リーダーを辞めると、広田さん、私とともに成形のリーダーとなったが、広田さんと北村さんは犬猿の仲だったので、間に挟まれた年下の私は非常に気を使った。リーダーを含む派遣社員全員がクビになって、飲み会が催された時、北村さんは私のことを「人間観察師」と言った。そして今、私はこの記事を書いている。

溝脇さん ☆☆
「ま、俺男前やからな」が口癖のハスキーな声の人で、私は「ブルース溝脇」と呼んでいた。成形専属の設備担当で、機械の調子がおかしくなるといつも溝脇さんに直してもらっていた。当時、私は家庭の悩み事を多く抱えていたのだが、それを相談すると仕事そっちのけで親身になって聞いてくれた人であり、そんなところが確かに男前で、ブルースだった。

長友さん ☆
名前はかろうじて思い出せたが、すぐに辞めていなくなったのでほとんど何も覚えていない。ただ、身体がデカくて温和で、なかなかのいじられキャラだったことだけは覚えている。

岩男くん ☆☆☆☆
モノマネでお馴染みのコロッケをさらに濃くしたような顔をしていた。若干態度がデカく、仕事のできる自分をアピールしたがる癖があったので皆からは嫌われていたが、私は彼のことが好きで、彼も私を「師匠」と呼んでくれていた。彼は私より一足先に工場をクビになった。私はその送別会に参加して、別れ際に「岩男くんの師匠は俺やで!覚えといてや!」と言った。笑顔で振り向いて「はい!」と爽やかに答えた岩男くんの顔はコロッケよりも薄かった。

高松さん ☆☆☆
怯えた犬ような人で、いつも自信がなくてビクビクしていた。私はなるべく彼と一緒にいるようにして、何度も彼を励ましたが、3ヶ月もしない内に辞めてしまった。まさか、それから数年後、心療内科の待合室で再会することになろうとは思いもしなかった。

朝倉 ☆☆☆☆
長身の、何かぶっ飛んだ奴で、最初は私と同じ日勤だったが、途中から夜勤に異動した。頭が悪いのか、悪気なく人を傷付けるタイプの人間で、平然と「和田さんって、いっつも靴ボロボロですよね」と言われた時には殴ってやろうかと思った。


強者どもが夢の跡~同期編~

広田さん ☆☆☆☆
天六商店街の酒屋の息子で、私より7つ歳上だった。顔は安倍晋三に激似で、それは本人も認めるところだった。最初は、先輩連中に取り入るばかりで同期の人間を馬鹿にしているかのような態度が見てとれたので苦手だったが、先輩連中が次々と辞めていき、広田さん自身や私がベテランに数えられるようになってくると態度は徐々に軟化して頻繁に接するようになり、最終的には一緒になって工場のやり方に苦言を呈す良き戦友となった。酒屋の息子だけあって無類の酒好きで、休憩時間に「ちょっとガソリンを」と言ってビールを飲みに行くことがあった。非効率な仕事のやり方を押し付けてくる部長の姫野さんに対して「あんたはアホか!」と一喝して以降は皆から「兄貴」と呼ばれ、慕われるようになった。派遣切りが本格化して、工場の業績が一気に傾き、出勤しても仕事がないといった状況になってくると、私は社員に隠れてそこら辺の裏紙にイラストを描くようになったのだが、広田さんはそんな私に「イラストレーターになれ」と言って、社員が突然現場に入ってこないようにずっと見張ってくれていた。私服姿は完全にVシネマのチンピラだった。

肇(はじめ)ちゃん ☆☆☆
私と同い年で、面接の段階からかなり親しくなった。面接の時、一人だけスーツを着ており浮いていた。「物心が付く歳になるまでわらじを履いて生活してた。周りにも靴を履いてる奴なんていなかった」と言うくらいド田舎の生まれで、超マイペースにしてド天然だった。保険の勧誘を受けると断れなくて3つも加入しているものだから、毎月「給料が残らない」と言って嘆いていた。社員の見ているところではよく働くが、見ていないところでは全く働かず、また、自分は暇なのに忙しい同僚を助けるということを一切しなかったので、2年半後には工場で最も嫌いな奴になっていた。

前田さん ☆☆☆☆☆
以前も当ブログに登場した、虫歯をヤスリと気合いで治すと言い張った伝説の男である。1年ほどで辞めていなくなったが、入社当時から何故か私のことを気に入ってくれて、休憩時間はいつも一緒だった。競馬で一攫千金を狙うためだけに生まれてきたような駄目な人だったが、話術にはなかなかのものがあって、しょっ中爆笑させてもらった。昔、ファミコンで「スペランカー」というクソゲーがあったが、あれを人類史上初めて「名作の中の名作」と言い張った男でもある。


強者どもが夢の跡~先輩編③~

グリセル ☆
ブラジルの女の人で、なかなか可愛かったが全く働かなかった。

ミッシェル ☆
ブラジルの男。私が入って3ヶ月ほどで辞めていなくなったからほとんど何も覚えていないが、あまりに働かないのでめちゃくちゃイライラしたことはよく覚えている。あと、辞めていなくなってから、実はドラッグの売人だったというオチがあったことも覚えている。

ジーナ ☆
毎朝、明石から電車に乗って働きに来ていたブラジルの女の人。グリセルは可愛いキャラだったが、ジーナは知的な美人キャラで、グリセルよりずっと日本語が上手かったし、驚くほどよく働いた。私がブラジル人の中で唯一親しくしていたのがジーナだった。

武内さん ☆☆☆
端正な顔立ちの男前ながら、高田純次的なテキトー感が炸裂していて、働きに来ている感皆無の底抜けに陽気な人だった。工場内で、工場の仕事とは全く関係のない、ネズミ講みたいなことに手を出していた。私の顔を見るといつも芸能人を見つけたかのようなビックリした顔をして、「わ、和田さんですよね!」と言って握手を求めてきたのだが、これが不思議なことに、何度も繰り返しやられてる内に面白くなってきて、しまいには武内さんの顔を見るだけで笑いが込み上げてくるようになった。そうかと思えば、まだ入りたてで緊張し倒していた私に「大丈夫ですよ。どんな仕事だっていつかは「見えた!」っていう瞬間が来ますから」という言葉を掛けてくれたりもしたし、休憩時間に、神崎川に架かる橋の下で暗い顔をして体育座りをしているのを見たこともある。最後まで掴みどころのない人だった。

大越さん ☆☆☆
ブサイクな上、性格の悪い背の低い女の人だったが、なぜかさほど嫌いにはなれなかった。古株で態度がデカいので、影では「お局」などと呼ばれていた。派遣切りが吹き荒れ始めた頃、なぜかちょっと色気づき始めたので、皆で「あれ?最近ちょっと綺麗になりました?彼氏でもできました?」と繰り返し声を掛けてみたところ、微妙に物腰が柔らかくなって、「ウフフ」みたいな笑い方をしたのでどつきたくなった。

永野さん ☆☆☆☆
常に驚いたような顔をした謎に満ちた男で、無口で挙動不審のアル中だった。「ヘビーメタルが好きらしい」というどうでも良過ぎる情報に吐くほど笑った覚えがある。


強者どもが夢の跡~先輩編②~

ファンディ ☆☆☆☆☆
私より5つ年下の頭のハゲた中国人。背は低かったが、筋肉質な身体をしていて、目がクリッとしていた。私が最も仲良くしていた同僚。いつも陽気で、非常に優しい奴だった。口癖は「アカンで!」で、右腕には「竜」と一文字刺青があったが、よく見てみると刺青ではなくマジックで書いてあるだけだったのでアカンかった。昼食時、食堂のテレビでニュースを見ていたら、中国で大地震があって大勢の死者が出たとの報道があり、「ファンディ、中国えらいことになってるで!」と言ったら、至って冷静に「中国人何人おると思てんねん。死んだらええねん死んだら」という返事が返ってきて思わず笑ってしまった。それから、ファンディは毎週欠かさずロト6を買い続けていたがびた一文当たらなかった。そして、ハズレの紙を捨てずに大切に財布に保管していくものだから、財布の膨らみだけは1等を当てた人みたいになっていた。内線の電話が鳴り、「はい、浦山です」と浦山さんのモノマネをして出たら電話の相手が浦山さんだったこともある。また、ある日私は、ファンディの「ファンディ」と書かれた名札をこっそり「パンティ」に書き換えたのだが、ファンディはいっこうに気付かなかった。歯を食いしばって重い樹脂の袋を運ぶパンティ。全神経を指先に集中して直径1ミリほどのレンズをエアピンセットでひっくり返すパンティ。背後から同僚に忍び寄り、カンチョーを食らわせて喜ぶパンティ。浦山さんの指示を神妙な顔をして聞いているパンティ。自分がパンティであることに気付くやいなや「アカンで!」と叫んで私に飛び蹴りを食らわせてきたファンディ。

私が工場をクビになった日、ファンディもクビになった。一緒にエレベーターに乗って、一緒に工場を出て、工場の前にある立ち飲み屋でビールを飲んだ。