強者どもが夢の跡~同期編~

広田さん ☆☆☆☆
天六商店街の酒屋の息子で、私より7つ歳上だった。顔は安倍晋三に激似で、それは本人も認めるところだった。最初は、先輩連中に取り入るばかりで同期の人間を馬鹿にしているかのような態度が見てとれたので苦手だったが、先輩連中が次々と辞めていき、広田さん自身や私がベテランに数えられるようになってくると態度は徐々に軟化して頻繁に接するようになり、最終的には一緒になって工場のやり方に苦言を呈す良き戦友となった。酒屋の息子だけあって無類の酒好きで、休憩時間に「ちょっとガソリンを」と言ってビールを飲みに行くことがあった。非効率な仕事のやり方を押し付けてくる部長の姫野さんに対して「あんたはアホか!」と一喝して以降は皆から「兄貴」と呼ばれ、慕われるようになった。派遣切りが本格化して、工場の業績が一気に傾き、出勤しても仕事がないといった状況になってくると、私は社員に隠れてそこら辺の裏紙にイラストを描くようになったのだが、広田さんはそんな私に「イラストレーターになれ」と言って、社員が突然現場に入ってこないようにずっと見張ってくれていた。私服姿は完全にVシネマのチンピラだった。

肇(はじめ)ちゃん ☆☆☆
私と同い年で、面接の段階からかなり親しくなった。面接の時、一人だけスーツを着ており浮いていた。「物心が付く歳になるまでわらじを履いて生活してた。周りにも靴を履いてる奴なんていなかった」と言うくらいド田舎の生まれで、超マイペースにしてド天然だった。保険の勧誘を受けると断れなくて3つも加入しているものだから、毎月「給料が残らない」と言って嘆いていた。社員の見ているところではよく働くが、見ていないところでは全く働かず、また、自分は暇なのに忙しい同僚を助けるということを一切しなかったので、2年半後には工場で最も嫌いな奴になっていた。

前田さん ☆☆☆☆☆
以前も当ブログに登場した、虫歯をヤスリと気合いで治すと言い張った伝説の男である。1年ほどで辞めていなくなったが、入社当時から何故か私のことを気に入ってくれて、休憩時間はいつも一緒だった。競馬で一攫千金を狙うためだけに生まれてきたような駄目な人だったが、話術にはなかなかのものがあって、しょっ中爆笑させてもらった。昔、ファミコンで「スペランカー」というクソゲーがあったが、あれを人類史上初めて「名作の中の名作」と言い張った男でもある。


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