どうも俺だけライブというものの捉え方が違う。他の演者たちと何がどう違うのかを考えていたところ、面白い喩えに辿り着いた。
俺は、山と海、どちらが好きかと訊かれたら迷わず「海」と答える。山はムカデとかスズメバチとか虫が出るから嫌。海が好き。で、普通、海へ行くとなると主たる目的は泳ぐことなんだろうけど、俺は泳ぐことに全く興味がない。確かに俺はカナヅチで泳げない。でも、泳げないから泳がないんじゃなくて、そもそも泳ぐことに興味がない。じゃ、海へ行って何をするのかというと、ビール片手にぼんやり海を眺めている。それから、ここからが本題なんだけど、俺にはもう一つ、海へ行ったら必ずやりたいことがあって、それは、浜辺に打ち上げられている流木とか貝殻を拾って歩くこと。ビニール袋を持って、色々と拾って歩く。水着を着てワアワア言ってる人たちの声を聞き流しながら、黙々と流木や貝殻を拾って歩くのが子供の頃から好きだった。最近、海に行く機会がないけど、行けば今も同じことをすると思う。
ライブが海だとすると、他の演者は皆、泳ぎに来ているのに、俺だけ拾いに行っている。拾って帰るのは録音した音源だったり、録画した映像だったり、俺の音楽を評価してくれる、俺にとってプラスになる「人」だったりする。
たまに、いや、結構な頻度で、意味のないライブをしてしまったと思うことがある。拾って帰るものが何もないライブ。あれはきっと、海ではなくプールだったんだろうと思う。そりゃ、泳ぎに来ている人たちは楽しいだろうけど、拾いに来ている俺は一つも楽しくない。プールサイドにゴミ以外の物が落ちていることなんてまずないんだから。
以前、何かのCMで「モノより思い出」というフレーズを聞いたことがある。世の中の大半の人たちはあのフレーズに共感したんだろうけど、俺は全く共感できなかった。同様に、他の演者たちは皆、「モノより思い出」で、泳ぐことでいかに楽しめるかが全てなのだろうと思うのだが、俺は「思い出よりモノ」で、いかに嬉しい拾い物をするかが全て。
「楽しい」と「嬉しい」が全くの別物である以上、あの人たちと俺も全くの別物なのだろうと思う。