すだち。その複雑な味。

冒頭、声が思うように出なくて焦った。その上、マイクが逃げていくので苛立った。

「今日はこれ、巻き返さなあかんパターンのやつや」

喉の調子が悪い時のリアムの気迫と、ビートルズが来日公演でマイクに逃げまくられていた時の静かな怒りとを思い浮かべて、3曲目以降、力技で巻き返した。

風邪でもないのに、喉に何かが絡んでいるような感覚があった。無理に押したら裏返ると思ったけど、そんな、中途半端にかわすようなことをしたら声が裏返るとか裏返らないとかではない、もっと大事なものがアカンことになってしまうと思ったから、「南無三!」と心の中で叫んで、押しに押したら裏返らなかった。

声の調子が悪い分、ギターに全てを託して弾き倒した。すると、今度はギターのチューニングが怪しくなってきたので、チューニングのズレが顕著に出る5曲目の前でチューニングをした。

6曲目は最高の出来だったと思う。

7曲目、最後の曲では歌詞を一部飛ばしてしまうというミスをやらかしたのだが、これは不思議と嫌な感じではなく、逆に、ミスを楽しんでいる自分がいた。

僅か30分の持ち時間の中で色々とあった。

ライヴ後、お客さんからの反応は3つに分かれた。ある人は「和田怜士はあんなもんじゃないだろう!」と言い、ある人は「曲は良かった」と言い、ある人は「後半良かった。前半分の金返せ」と言い、ある人は「圧巻」と言い、ある人は「ダントツで良かった!」と言ってくれた。

これだけ評価の割れるライヴをしたのは初めてのこと。っていうか、お客さんの評価が一つ一つちゃんと自分の耳に届くようになっているということに驚いた。

音楽人としての俺はハッキリとしたものの言い方をする。だから、俺の周りにいる人たちも実にハッキリとしたものの言い方をする。そしてそれが俺を成長させてくれる。

覇気なく「よかった」なんて、何の足しにもならない伸びた麺のような褒め言葉なんていらない。


☆1・30ライヴ詳細&新フライヤー発表☆

『すだち』

1月30日(火) 扇町para-dice

<open/start>19:00/19:30

<adv/door> ¥1200+1drink

<with> バニーマツモロ、キタ(than)、s.ilver

*俺の出番は2番。よって、『綺麗な動物』上演開始時刻は20時頃。解説を読んだ人は一人残らず観に来て欲しい。全力を尽くす。「全力を尽くす」ってどういうことなのか。見せるから観に来て欲しい。

ギター抱えて階段を降りるのはこれが最後です。


組曲『綺麗な動物』解説〜⑦未来へ

ライヴのトップを飾ることが多かったこの曲をラストに回した瞬間に組曲が完成したと言っても過言ではない。藤川球児みたいなもので、先発から抑えに転向したことで大きく化けたのである。

『未来へ』は、組曲を構成する7曲中、バンド時代にもやっていた唯一の曲で、あからさまに初期のビートルズを意識して書いた覚えがあるが、今のところ誰にも「ビートルズっぽい」と言われたことはない。つまりは『FLOWERS〜』同様、俺が最も得意とするタイプの曲で、そういったタイプの曲を先発と抑えに配置してあることが組曲の安定感に繋がっているんだろうと思う。

開き直ることや離脱することを覚えて自分に羽根が生えていることに気付いたらあとはもう黙って飛ぶだけだ。

R&R!!


組曲『綺麗な動物』解説〜⑥復活の予感

もし、この組曲が一枚のアルバムで、2曲ほどシングルカットすることになったとしてもこの曲は選ばない。パンチがあり、コンパクトに纏まっている曲であるにも関わらずあえて外して、「なぜこれをシングルカットしなかったのか」と言わせる方向にもっていく。それがこの曲に於ける「適材適所」だと思う。

また、この曲は何気に歌詞が濃い。まず、③と⑤が歌詞の中で繋がっていたように、この曲の歌詞は①と繋がっている。

①『FLOWERS IN THE DIRT』は「ゴミの中の花」という意味で、ここで言う「花」とは俺の死んだ親父のことなのだが、この『復活の予感』の中では「花が散って自問自答が終わる」と、親父の死について恐ろしく前向きな捉え方をしている。それから、「求愛ダンスで賑わう負のスパイラルの外へ」というフレーズの「負のスパイラル」とは、内輪で盛り上がっているだけのライヴハウスであったり、ライヴバーであったり、そこに出入りしているアーティストたちを指していて、つまり、この曲は「離脱」について歌っている。

強烈に影響を受けた人の存在感から離れることや、肌に合わない環境から潔く脱することが自分の復活に繋がるーということに気付いた時、「処刑台の上」で気付いた時、口をついて出た言葉が「羽根のない人間は人間じゃない!」だったという、そんな曲。

ここ数年で俺も少しは成長したのだ。


組曲『綺麗な動物』解説〜⑤紙吹雪舞う

ここで「紅一点」とも言うべきバラードが登場する。

20歳の時に書いた曲で、昨年、歌詞を一新して復活させたのだが、アレンジは20年前のまま一切手を加えていない。

サビの、Cから下がっていって、Am、Gという流れは、UKロック好きのソングライターなら一度はやってみたい定番かつ必殺のコード進行なんだけど、定番かつ必殺だけにめちゃくちゃセンスが問われるので、やる以上は名曲に仕上げねばならないから名曲に仕上げた。

注目すべき点はメロディーだけではなく歌詞の中にもある。③『バタフライ』で自分のことを「ブザマなバタフライ」と言っていた主人公が、この曲の中では「僕はただのバタフライじゃない」と言っている。

「開き直りによる自己解放のススメ」みたいな歌詞になっている。開き直ることによって自分で自分を解放してあげた時に降ってきたもの。それが紙吹雪で、PVでは、その紙吹雪の役を数々のレコードジャケットが担ってくれているのだが、よく見ると、画面左上に河合奈保子と薬師丸ひろ子のシングルジャケットが並んでいるのがわかる。

はずしたかったけど、スタジオのおっちゃんに怒られるからはずさなかった。


組曲『綺麗な動物』解説〜④果物をてんこ盛った巨大なケーキ

ここまでの3曲を聴いて「こいつひょっとしたら、ま、絶対違うと思うけど、割と頭の良い奴なんじゃないか?」と勘ぐってくれた人がいたとしても、ここで「やっぱりただの馬鹿だったあ!!」と叫んで桂文枝ばりに椅子から転げ落ちることになるに違いないとにかく明るい曲。

子供でもわかるメロディーと歌詞。でも、これを組曲の真ん中に持ってきているところが、俺が馬鹿は馬鹿でもただの馬鹿ではない所以。

この曲は、この曲にしかない魔法がある。

普段、そんなに音楽を聴かないであろう人たち。音楽について全くと言っていいほど知識がなく、ライヴハウスに足を運ぶことなんて年に一度もない、ただの付き合いか何かで偶然その場に居合わせた人たちが笑顔を浮かべて手を叩いたり身体を揺らしたりしてくれているのをステージ上から眺めることの幸せを味わわせてくれるのがこの曲。だから、この曲を歌ってる間だけ、俺、ニコニコしてる。そして、この曲で弾くギターのみ、「ロック」ではなく、「ポップ」を意識してる。

要するにギターポップですな。


組曲『綺麗な動物』解説〜③バタフライ

過去13回のライヴでこの曲をやらなかったのは僅かに1回。最初回、塚口の居酒屋でやった時のみ。従って、この曲は特に磨きがかかり、味が出てきていて、いまや俺の代名詞的存在となった。ある人は、この曲の冒頭のアルペジオを聴いた時に、和田怜士のライヴを観に来ていることを実感すると言っていた。

毎回欠かさずやっているというのは、俺の中にもこの曲は特別だという意識があるから。また、俺にとって特別な生き物が蝶で、特別な色と言えば赤なので、この曲をやる時の照明は徹底的に赤にしてもらいたいとライヴの度に必ず照明のスタッフに願い出ている。

メロディーについて言えば…これは極めて個人的な感覚なんだけど、俺史上初めて、ギターコードの表面の音ではなく、裏側からメロディーを拾った曲だと思っている。

わかるかな〜。わっかんねえだろうな〜。イェーイ。by 松鶴家千とせ