とある駐車場に、「空アリ」の看板が掲げられていて、ある男が、「空」を「そら」と読んだ。
くる日もくる日も、男は駐車場にやって来て、空を見上げている。と、そこを偶然通り掛かった一人の女性が、その男を見て不思議に思い、声を掛ける。
「何をしておられるんですか?」
「いや、ここにはね、そらがあるんですよ。」
その翌日から、この女性も駐車場に来て、男と一緒に空を見上げるようになる。二人の間に、恋が芽生えるというような気配は微塵もなく、ただただ、二人並んで空を見上げている。
数日後、駐車場で空を見上げている人間の数が、相当な数に膨れあがっている。誰も何も喋らない。無言で空を見上げている。
或る日、最初に男に声をかけた女性が突然口を開いて男に耳打ちする。
「あの、最近、そらが少し狭くなったような気がしませんか?」
「え?あなたもそう思われますか?実は僕もそう思っていたんです。」
と、そこへ、手押し車を押した老婆が通り掛かって、駐車場の人々に問い掛ける。
「皆さん、そんな所で一体何をしておられるのかや?」
皆、一斉に老婆の方を向き、口を揃えて答える。
「ここにはそらがあるのです。ほら、そこの看板に書いてあるでしょう?」
老婆は看板を見るやいなやカラカラと笑ってこう言う。
「これかえ?これは「そら」じゃなくて、「あき」と読むんじゃよ。」
「…あき?そうか、そうでしたか。ここには秋があるんですなあ…。」
空を見上げていた俳人のような爺さんがうっとりとした表情を浮かべて呟くと、空から駐車場にいる人間の頭めがけて、人数分のタライが落ちてくる。
ガンッ!
ガンッ!
ガンッ!
そして暗転…。