ソファー

気持ちが落ち込むことを「ヘコむ」と言う。

ヘコんでいる時には、他人が自分よりも大きく、上に見えて、その他人の中には、日頃、ヘコんでいない時の自分の前では優しい人間を演じている悪党が混じっていて、嗅覚鋭くこちらのヘコみを察するや、無遠慮にズカズカと踏み込んで来て、ヘコみの上にドカと腰を降ろす。だから、基本、ヘコんでいる時の自分は他人の目に晒すべきではない。ヘコみの上に腰を降ろされてさらにヘコむのは勘弁願いたいからだ。

悪党の目に、ヘコんでいる人間はどう映っているのか―たぶん、ソファーだと思う。
部屋の片隅に、遠慮がちに置いてあり、まるで「座ってください」と弱々しく呟いてでもいるかのような小さなソファー。

ソファー自体は、人間の中に常にあるが、精神状態によって、座られ方が大きく変わってくる。太っ腹に他人に座らせてやろうと思える間は人前に出しても良いが、精神的に窮してきて、ソファーが縮み始めて、色が褪せ始めたところへ一言の断りもなく座られそうになったら、さっさと物置部屋にブチ込んで、殴ったら人を殺せそうなくらいデカい南京錠でガチガチに鍵を掛けて出られないようにしてしまうべきだ。

「ヘコむ」というのは「凹む」とも書く。また、マゾのことを「M」とも言う。形状が、完全にソファーだ。


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