信じてください

私は、アーティストというのは、信用の問題だと思っています。

「こいつぁ信用できるぜ!」と思わせることができるか否か。

私は期待に応え続けていく自信があります。信用を裏切らない自信があります。

人間和田一憩は別として、アーティスト和田一憩は、大丈夫だと思います。

信じてください。


どうすりゃいいんだ

自分の中で、何者かが猛烈な勢いで暴れているのを感じます。

「ここから出せ!出さんかいコラー!」と言っております。

ちょっと前まで、人は私に「もっと本音を出せ」と言ってました。「言うてくれんとわからんから」と。で、それから色々あって、ようやく本音を出せるようになったら今度は「言い過ぎやで」と言われるようになりました。

抑制が爆発を生みます。抑制に費やされた時間が長ければ長いほど、突発的で、取り返しのつかない大爆発が起こります。

と、書いている今も、自分の中から「ここから出せ!出さんかいコラー!」という声が聞こえてきます。


四面楚歌

「右か左か」と訊かれた場合に、「真ん中」と応えるような奴ばっかりだ。

「好きか嫌いか」と訊かれた場合に、「好きでもないし嫌いでもない」と応えるような奴ばっかりだ。

何がそんなに恐いんだ。はっきり言え!

「上か下か」と訊かれた場合には、はっきり「下」と応えるくせに。


あとがき

『姫と蜘蛛』『温泉街の射的場』に続く三作目の挿話『象牙の印鑑』いかがだったでしょうか。「いかがだったでしょうか」って言われても困りますか?(笑)

こういうのは詩と同じで、説明をすると台無しになるので説明しませんが、ひとつだけ言えるのは、もしこの文章から笑いの要素を完全に取っ払ったら、物凄くえげつないものが浮かび上がってくる―ということです。

結構痛切なんでございますよ。笑いの蔭に潜んでいるものは。


挿話『象牙の印鑑』〜微修正完全版〜

僕が今、一番欲しいもの―それが、象牙の印鑑なのです。

あれはちょうど半年前のことでした。僕は、通勤途中にある質屋のショーウィンドウの中に、あの象牙の印鑑を見掛けて、一瞬にして心を奪われてしまったのです。それからというもの、食事は喉を通らず、夜も眠れず、仮に眠れたとしても、夢の中で象牙の印鑑を見てしまうという始末で…寝ても覚めても象牙の印鑑、象牙の印鑑。

買えば良いではないか―とお思いでしょうが、あの象牙の印鑑は、お賽銭泥棒を生業とする僕のような者にはとても手の届かない高嶺の花のような象牙の印鑑なのです。

そうして僕は、来る日も来る日も想い続けました。あの柔らかい乳白色を想い続けました。するとどうでしょう!ある日気が付くと僕の中に、喪失感としか言い様のないものが出来上がってしまっていたのです!

もちろん、あの象牙の印鑑が僕のものであったという過去はありません。今も昔も、あの象牙の印鑑は僕のものではありません。僕はただ、心から、手に入れたいと願っているだけなのです。だから、決して「喪失」ではないはずなのです。だいいち僕は、あの時あの質屋の前を通り掛かるまでは、シャチハタで十分社会生活を営めていたんですから。にも関わらず…にも関わらずです。今、僕の中にあるのは喪失感なんです。

ああ!僕は一体何を失ってしまったんだろう!ああ!シャチハタを握り締めてヘラヘラ笑っていた頃の僕は何処へ?

「要するに、ハンコをお忘れになったんですね…」