感じるべき痛み

人間、本当に思い出したくないことについては、意外と思い出さずに済むものであるが、その為に費やす精神力たるやなかなかのものである。
油断できない。気が抜けない。常に自分の中に耳を済まして、少しでも不穏な動きを察知すれば即時、これに対応しなければならないーといった、モグラ叩き的状況は、介護施設の夜勤者が置かれている状況によく似ている。緊張感を持続し続けるというのは、もうそれだけで相当な重労働である。また、思い出したくないことを思い出さないための葛藤というのは、自分の身体に自分で、強力な鎮痛剤を打ち続けることにもよく似ている。つまり、感じるべき痛みまで感じられないようになってしまうのである。


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