「WHY?」に添える小さな物語

ポーラはこの世のものとは思えぬほど美しく魅力的な女性だった。

特にこれといった取り柄もなく、言うに言えぬ劣等感を重い影のように引きずりながら生きるウィルにとって、ポーラを愛し続けることの他に「生きる意味」と呼べるものは何もなかった。ポーラはただ、美しく魅力的な女性としてそこにいるだけだったが、そのことがウィルを絶えず救い続けた。

ウィルは想いを胸に秘めたままでいられるような人間ではなかったし、駆け引きというものに嫌悪感すら抱く人間であったから、すべてを「愛している」の一言に託して精一杯、無数に投げ掛けたが、ポーラが微笑を浮かべて返す言葉はいつも「結構です」だった。

ウィルは、数え切れないほどいる恋敵たちの想いが皆、不誠実なものであることを知っていた。言葉巧みであったり、駆け引きに長けていたり、人当たりが良かったりしても、それらが皆、嘘で、ポーラを弄ぶだけのものだということを知っていた。だが、ポーラはそれに気が付かなかった。ウィルの存在は自分を慕い、取り囲む人間のうちの一人に過ぎず、彼の想いや言葉は、たとえそれが真実と言えるものであっても、いとも容易く偽りに埋もれた。

ポーラは誰のものにもなろうとはしなかったが、ウィルの目にはそれが、一人残らず、皆のものになろうとしているようにも映り、その瞬間から、ポーラの輝きに翳りが見え始めた。ウィルの中で、生きる意味そのものであり続けたポーラが堕ちてゆく。

見ていられない。

不意に差し伸べた手。それはこれまでずっとポーラの手にすがりついてきた手で、ポーラの手がすがりつく手ではない。誰か他に手を差し伸べる者は?見渡すが、不誠実な恋敵たちにポーラの堕落に気付く者などいない。

ポーラはウィルが咄嗟に手を差し伸べてきた時、差し伸べてきたことの意味と、他に差し伸べてくれる者が誰もいないことに気付いて、悟るものがあり、自分を諦めた。

哀しみのあまり、涙は流れず、笑顔が浮かんだ。


コメントする

メールアドレスが公開されることはありません。