昨夜見た夢〜二夜連続の悪夢

私は、大阪の祖母の家から伊丹の中心部まで、電車に揺られて帰ってきたところらしく、街の片隅の小ぢんまりとした公園のベンチに腰掛けて一息ついていた(夢の中の伊丹は、建築物が全てレンガ造りだった)。

視線の先には長い手すりがあり、その上に友人が私の為に置いていってくれたとおぼしき薬の袋があったが、私はそれを無視して立ち上がり、公園の角を曲がって、大きな道路沿いを真っ直ぐ、バス停目指して歩いた。歩きながら、何気なく後ろを振り返ると、さっき自分がいた公園から、逃げるように走り去る男の後ろ姿が見えた。

嫌な予感がした。

その直後だった。まるで耳栓でもしたかのように、何も聞こえなくなり、前方からこちらに向かって歩いてくる女の人が、突然立ち止まったかと思うと、ビクッと身体を震わせて、耳を塞いだ。

まさか…!と、何故か思い、振り向いて公園の方に目をやると、公園周辺が火の粉に包まれていて、空が真っ赤に染まっていた。爆弾が爆発したらしい。私の脳裏に、手すりの上の薬の袋と、逃げるようにして走り去った男の後ろ姿が浮かんだ。

「第二警察署がやられた!」と叫びながら、大勢の警官が走り回っている中を、私はバス停目指して走った。

燃える空。舞い乱れる火の粉の中をバスはやって来た。そして、「虫」としか例えようのない有り様の群衆が、大きな獲物に群がるように我先にと乗り込んでいく。私は、この狂気染みた光景を、怯えながら眺めていた。

夢はここから一気に、ラストシーンへ跳んだ。私が、バスの窓側の席に座って、ぼんやり外を眺めているというものだった。バス停での狂気染みた光景からは想像できない、実に閑散とした車内だった。


歌詞『孤高』

失うことを無闇に恐れて

何を得ようと言うの?

終わることを無闇に恐れて

何が始まるの?

君は選ばない 全て欲しがる

君は選べない 全て失う

孤独の前に醜態をさらしても

君には居場所がある

質より量の友情論が飛び交い

僕は誤解される

君は選ばない 全て欲しがる

君は選べない 全て失う

君の世界には僕の居場所がない

二度と戻らない

僕は帰らない

僕は帰らない

絶対に帰らない

孤高とはその才能ゆえ

自ずと浮いてしまう人を言うのでしょう

最後に笑うのは一体誰?

考える前に答えは出てるでしょう


昨夜見た夢

大きな高架下を這うように造られた、大きな鉄橋の下を歩いていた。

固まる前のセメントみたいなものが、右手の甲にぬめり落ちてきた。

ハッとして前を見ると、そこら中に、私の手の甲に落ちてきたものと同じものが垂れ落ちてきていた。

ヤバい!と思った時、橋の骨組みと思われる朱色のバカでかい鉄筋が次々に落ちてきた

阿鼻叫喚。私も、周りの人たちも、逃げに逃げた。

次に見たのはたぶん、その翌日の映像。昨日自分が歩いていた場所の惨状を、随分冷静に眺めて歩く自分がいた。

シーン飛んで、とある公園。公園内は昨日の出来事に動転している人たちでごった返していた。そこで、私は或る女に出くわした。お互いに、あからさまに驚いた。彼女は娘を連れていたので、私はその娘に、「昨日は大変やったなあ」と言って、その娘と遊んだが、その娘は母親に向かって、「このおじさん誰?」と言って笑った。

目を覚ました時、私は、自分が夢の中で泣いたのか、現実世界で泣いたのか、よくわからなかった。


詩『蝋燭』

微動だにしない蝋燭の火を挟んで

「たまにはシラフで喋ったら?」と君

「たまには素顔で笑ったら?」と僕

翌日 僕は酒を飲まずに待ち合わせ場所へ

翌日 君は化粧をせずに待ち合わせ場所へ

「誰が酒をやめろと言いました?」って君は言うんだろうから

「誰が化粧をやめろと言いました?」と僕は言い返してやるつもり

胸躍らせて並行線

二人別々の待ち合わせ場所へ


詩『才能の葬儀』

口に手を突っ込んで

喉に指を捩じ込んで

酒に爛れた赤黒い言葉が

朽ちた床の上に音もなく落ちる

気焔を吐こうとして

血を吐き続けた

老いた詩人の魂が見放したもの

見放したのではなく

見放されたことに気付いた時

秩序をくれ!と叫んで

妻の面影

ロッキングチェアに哭き崩れた

情熱の枯渇

忘れ去られた獣道

才能の葬儀

庭先にカラス

炭化した夢

粉々に砕け散って

時計が止まる


詩『人魚』

凍りついて見上げていた

そこに君の肉体はなく

見覚えのある真っ赤なドレスが立っていた

胸元には猫の目に似たガラスの玉が輝いていたが

突然弾け飛んで螺旋階段を駆け降りると

僕の足元で音を立てて割れてしまった

割れてしまった

割れてしまった

インクの瓶

言葉を一切受け付けない真っ白な便箋が

一瞬にして

深い青に染まった

あそこに浮いているのは人魚ですか?

手遅れでしょう

手遅れでしょう

手遅れでしょう

僕が口にしたのは毒なのです

毒の味を覚えたら

僕は

あなたに

すべてを打ち明けるつもりでいます

毒の味を覚えたら

僕は

あなたに

すべてを明け渡すつもりでいます

毒の味を覚えたら…


詩『素敵な悪夢』

誰もが快晴だと信じて疑わない空を

君は少し疑っている

僕はあの空に

一筋の雲が浮かんでいるのを見つけて

ただそれだけのことで

君を汚染する

君の理性の残骸が

五線譜の上に流れ込む

素敵な悪夢はいかが?

素敵な悪夢はいかが?

どうにでもなれ!

君の叫び声が

僕の唇を紫に染める

紫が

微かに歪む

全てが止む

君が胸を撫で下ろすたび

人と人

想いと想いがすれ違う

快晴だった窓の外

黒く濡れて

素敵な悪夢はいかが?

素敵な悪夢はいかが?

通りがかりを装って

君の家のドアを叩く

君を助けたのは誰?

君を助けたのは誰?

素敵な悪夢はいかが?

素敵な悪夢はいかが?

誰もが嵐と信じて疑わない空

君だってそうらしい

結局

その程度の女の子

僕はあの空の雲の切れ間に

一筋の光を見つけたような気がして

ただそれだけのことで

やっぱり君を汚染する


詩『祈りのかたち』

眼を閉じて食卓に着け

叶う祈りは嚥下の形

飲み込んで下へ

飲み込んで奥へ

飲み込んで底へ

飲み込んだら

飲み込むことを飲み込め

下へ下へ

奥へ奥へ

底へ底へ

底の底を突き破れば

頭は遥か雲の上

誰もいないが誰かいる

気配の中で喋りたまえ

気配の中で喚きたまえ

気配の中で唸りたまえ

急転直下 屋根に穴

待ち遠しさに笑いあり

待ち遠しさに涙あり

そこで待て

ひたすらに待て

屋根にあけたあの穴は

天使のための覗き窓

眼を閉じて食卓に着け

叶う祈りは嚥下の形