音楽の「楽」

歌詞を書かずに済んだらどんなに楽か…というのはノエル・ギャラガー(オアシス)や加藤ひさし(ザ・コレクターズ)も言っていて、元春さんも「曲ならいくらでも書ける。でも、言葉はそういうわけにいかない」って言ってる。本当に、誰か代わりに歌詞書いてくれないかな…ってしょっちゅう思う。

俺の場合、ギターのチューニングも面倒くさい。弦を張り替えるのはもっと面倒くさい。誰か代わりにやってくれないかな…ってしょっちゅう思う。

セットリストが決まらない。50近くある曲の中から7曲を選んで流れを見て順番を決めるというのは簡単な事じゃない。観に来てくれる人たちがどの曲を期待してくれているのかもわからないし難しい。誰か代わりにやってくれないかな…って思う。

好きなことをやってる。だから、楽しくないわけがない。個人的には「楽しい」よりも「嬉しい」を大事にしてるけど、じゃ「楽しくないのか?」と言われればそんなわけはない。楽しい。でも、決して、楽なことをやってるわけじゃない。楽なことをやってるわけじゃないから、うまくいった時、「楽しい」よりも「嬉しい」が先に来て、やめられない止まらないの根源になる。


ここらでちょっと(弾んで)一息

https://youtu.be/vVb7thGPf50

昔、ニルヴァーナが出てきて、グランジ旋風が巻き起こった時、グランジバンドに紛れて素晴らしいメロディーを聴かせるギターポップバンドやパワーポップバンドがいっぱい出てきた。

ティーンエイジ・ファンクラブ、ザ・ポウジーズ、ウィーザー、レッドクロス、アージ・オーヴァーキル、レモンヘッズ…今でも好きでよく聴いてるバンドがいっぱい出てきたんだけど、その中で一つ、ジャケ買いでホームラン。誰も知らないけど大好きになったバンドがあって、それがこのスーパードラッグ(あの頃は、スーパーデラックスやら、スーパースナッズやら、スーパーナチュラルズやら、スーパーグラスやら、スーパーチャンクやら、頭に「スーパー」の付くバンドがやたらと多かった。当時、友人とバンドを組むことになり、「バンド名なんやけど、『スーパー関西』はどう?」と言ったら却下された覚えがある)。

20年前、中古CD屋で、女の人が鏡を覗き込んでいる綺麗なジャケットが目に止まって手に取った。裏返して裏ジャケを見たらマッシュルームカットの奴がリッケンバッカーを弾いている。「!」即買い。店の前のレンガでできた花壇に腰掛けて、CDウォークマンにCDをぶち込んで再生ボタンを押したら1曲目からホームラン。2曲目も3曲目もホームラン。4曲目のこの「サックド・アウト」に至っては場外満塁ホームランだった。

スーパードラッグ。YouTubeでカタカナ検索しても見つからなかったのだが、アルファベット検索したら見つかった。今まで映像を見たことがなかったから感動した。やっぱり最高だ。

まあ、見ておくんなはれ。聴いておくんなはれ。恐ろしくパンチの効いた、初期ビートルズのええとこどりのようなメロディーとガチャガチャしたバンドサウンド。俺はホント、こういうのに目がねぇんだ。

それにつけてもヴォーカルのジョン・デイヴィス。名前こそジョンだけど、顔も動きもポール・マッカートニーそっくりだ(笑)


フェイドアウトからのフェイドイン

前回のライヴ以降、新曲を作る時以外は全くギターを弾いていない。今、俺がまともに弾ける曲は新曲だけだと思う。いや、新曲だって、新曲だけに、怪しい。

でも、これが俺のいつものやり方。ライヴで自分の音楽にガッツリ接近した後はガッツリ離れる。自分の中からライヴの感覚が抜け切って、ギターの弾き方すら忘れて、ゼロになるまで近づかない。そうして、ゼロになる頃には次のライヴが射程距離に入ってくるから、そのタイミングで重い腰を上げて、ギターに「久しぶり!」と一声かけて、新鮮な気持ちで自分の音楽に向き合う。すると、一度気持ちをリセットした分、自分の音楽が客観的に、クリアに見えて、自分でも思いもよらないアレンジが閃いたりなんかして、そのアレンジを施して生まれ変わった曲を次のライヴで自分の起爆剤としてセットリストに加える。これまでずっと、この流れを大事にしてきた。昨今の阪神タイガースじゃないけど、「(曲を)育てながら、(ライヴで)勝つ」というのを大事にしてる。

次のライヴまで一カ月を切った。自分の中のバロメーターも今日明日あたりで確実にゼロになる。先月、今月と素晴らしいライヴを立て続けに観て良い刺激を受けたし、新曲も出来たし、過去の曲でちょっと手を加えたら大化けしたのが一つあるし、ぼちぼち腰を上げると致しましょう。

戦闘準備開始。


音楽の心臓

昨夜は昨夜で伊丹DABADAの月例ライヴを観てきたのだが、バルタン松尾さん(ザ・バーカーズ)のブルース愛に満ちたステージに胸を打たれた。

やっぱり、「俺はこれが好きだ!」という一途で強烈な想いがあって、やっている事にブレがないアーティストのステージというのは見応えがある。俺は普段、そんなに頻繁にブルースを聴く人間ではないけど、さすがに昨夜は帰宅してすぐにブルース(バディ・ガイのライヴ盤)を聴いた。素晴らしいアーティストのライヴを観ると、自分の関心が、ある種、そのアーティストを通り越して、そのアーティストがこよなく愛しているものに向かう。ブルース。「聴く酒」とも言える、中毒性の塊のような、確実に人を駄目にする(笑)、素晴らしい音楽だ。

バルタンさんのステージは自分の表現をあらためて確認する良い機会になった。俺が一番好きなものはロックだ。だからロックをやる。ロックだけをやる。全力でやる。もっとできる。もっともっとできる。極限までロックでいく。そして、一人でも多くの人にロックを好きになって欲しい。

いつも全力で、いつも燃え尽きる事ができれば、その熱量が何かを動かし始める時が必ず来る。

熱量の出所は「愛情」だ。


元春さんは凄かった

佐野元春のライヴを観てきた。

断言する。これまで観たライヴの中で最高のライヴだった。

過去の曲はほとんど演らず、「今」、ザ・コヨーテバンドと作った4枚のアルバムからの曲がずらりセットリストに並んだ。バラード系の曲は1曲も演らず、ひたすらにロック。俺がカバーしてる「ポーラスタア」も演った。大合唱だった。

元春さんは終始嬉々としていた。ファンも終始嬉々としていた。元春さんのファンへの愛情と、ファンの元春さんへの愛情が絡み合って爆発していた。「これがライヴだ!」と思った。

「ロックンロール。それは古い世代と新しい世代を繋ぐ虹のようなものだと思っています。僕はみんなともっとロックしたい!」

佐野元春。日本一カッコいいオッサンだ!


新曲『グラサージュ』完成

49作目となる新曲『グラサージュ』が完成した。

ラヴソングのようでラヴソングではない。でも、この曲はその「ラヴソングのようで」というところが肝心。

「甘いもので包む」みたいな意味のタイトルにしたくて、洋菓子作りに精通している我が奥さんに何か良い言葉はないか訊いたところ「グラサージュ」というのがあると言う。響きも良いし「それだ!」ということで、『グラサージュ』と命名した。

詩を書いていると自分でも意味のわからないフレーズが出てくることがある。意味はわからないけど、「これしかない」と思えるものが出てくることがある。この曲に関して言えば、「あの人はもうあの日の事を何一つ覚えちゃいないよ」という部分がそれに当たる。何のことだかさっぱりわからない。でも、これ以外の言葉を考える気にはならなかった。

短いけど心のこもった良い曲だ。11月のライヴに間に合った。

やるかやらんかは別として。


怜士、ロックンロール・ウェザー誌読者の質問に答える<ノーカット完全版>

Q 曲を作る時、曲を先に作りますか?歌詞を先に作りますか?

A 曲が先。唯一「綺麗な動物」という曲だけは歌詞を先に書いた。

Q 「和田怜士」というキャラクターにコンセプト的なものはありますか?

A あまり大々的ではないけど、海賊のイメージはいつも意識してるよ。病的なカナヅチで全く泳げないんだけどね(笑)

Q ギタリストでなかったとしたらどの楽器をやっていたと思いますか?

A 間違いなくドラムだな。一時期、ドラマーだったこともあるし、音楽聴く時、ドラムだけ聴いてることがよくあるよ。

Q ギターのコードで特に好きなコードってありますか?

A 面白い質問だ。Am7だな。あの響きが大好きだ。俺の曲には頻繁過ぎるくらい頻繁に登場するよ。曲を作ってて展開に困ったらとりあえずAm7を鳴らしてみるんだ。

Q 毎日欠かさず聴く曲はありますか?

A リアム・ギャラガーの「FOR WHAT IT’S WORTH」は毎日欠かさず聴いてるよ。1日に2、3回は必ず聴く。そういえば、この曲から感じる響きこそまさにAm7だ。

Q 好きな言葉は?

A 架空。

Q 趣味はありますか?

A 散歩だな。どこへ行くにも「歩いていこう」って言うからウチの奥さんに迷惑がられてるよ(笑)

Q もし生まれ変わるとしたら人間?動物?

A 人間。同性からは死ぬほど嫌われるけど異性からは吐くほど好かれる容姿端麗ながら性根の腐り切った女がベストだ。

Q 世界一嫌いなアーティストは?

A コブクロ。あいつらのバラードが聞こえてくると見境なく人を殺したくなる(笑)

Q 世界一好きなアーティストは?

A ビートルズとオアシス。俺にとってビートルズが愛ならオアシスは恋。ビートルズが家ならオアシスは旅。ビートルズが水ならオアシスは酒。どちらか一つを選べと言われても答えられないよ。

Q あなたが過去に在籍したバンドで再結成の可能性が残っているものはありますか?

A ない。どれもこれも再起不能だ。中途半端な終わり方をしたバンドなんて一つもない。活動期間の長い短いに関係なく、皆、出せるものを出し尽くして終わるべくして終わった。つまり、中途半端な終わり方をしてこなかったからこそ、ソロでの活動再開についても、中途半端な始め方をせずに済んだんだ。

Q 歌っていて一番楽しい曲は?

A いつも、その時々の新曲を歌うのが一番楽しい。ただ、これまでに書いた曲の中で何度歌っても飽きがこない曲ってことになると「バタフライ」かな。何度歌っても新鮮に感じる。だからこそ、一度もセットリストから外れたことがないんだと思うよ。

Q ライヴの時、1曲歌い終わるたびに「ありがとう」と言うのはなぜですか?

A オーディエンスが拍手するタイミングに困らないようにだよ。俺、あの気まずい雰囲気がたまらなく嫌なんだ。かと言って、「はい!ここで拍手!」とは言えないだろ?(笑)

Q 一般人には必要でも、ロックスターには無用の長物でしかないものってありますか?

A 素晴らしい質問だ。ロックンロール・ウェザー誌の読者はレベルが高いね。答えるからよく覚えとけよ。「謙遜」だ。

Q 子供は好きですか?

A 子供によるよ。可愛いなと思う子供もいるし、憎たらしいと感じる子供もいる。でも、その質問が漠然としたもので、漠然と答えても良いのならこう答えるかな。老人と同じくらい嫌い(笑)

Q 子供の頃の特技は何でしたか?

A 絵を描くこと。鉛筆やクロッキーで描かせたら誰よりも上手かった。でも、色を塗るのが誰よりも下手だった。

Q あなたが主宰しておられる海賊ライチrecordsに本田純正というライターの方がおられるようですが、実在する方ですか?

A もちろんだ。彼は俺より二つ歳下で、インディーズの劇団で脚本を書いてる。さすがに脚本家だけあって文章が上手いから、第三者的に俺のことを書いて欲しい時に力を貸してもらってる。考えてもみろよ。俺に「「退場!」は時に自由を喚起する」なんて文章書けるわけないじゃないか(笑)

Q あなたにとってロックとは?

A 喜怒哀楽、全ての感情に正直で、嘘がなくて、信用できるもののこと。

Q あなたにとって最も信用できないジャンルは?

A J-POP。音楽が軽薄ならリスナーも軽薄。だから、音楽もリスナーも使い捨て。使い捨てというのはゴミと化すのを待っているもののことだ。できれば関わりたくない。

Q 最近叶えた小さな夢はありますか?

A このQ&Aこそまさにそれだ。多くの質問に答えること、インタヴューに答えることが俺の数ある夢の中の一つだったからな。だから礼を言うよ。ありがとう。


架空音楽誌『ロックンロール・ウェザー』より抜粋

10月4日(木)未明。和田怜士は自身が主宰する「海賊ライチrecords」事務所で会見を行い、3作目となるライヴ・アルバム『RED CARD』の発表を明らかにした。

アルバムの内容は2018年9月9日、伊丹DABADAで行われたライヴの模様を収録したもので、マスタリングは過去2作同様、Dr.F氏が担当。ライヴ当日、怜士の魂に火を付けた大幅にマナーを欠くオーディエンスの声をノイズ扱いとし、可能な限りカットした上で、サウンド全体に丸く厚みのあるアナログ的な音処理を施した。また、アルバムジャケットについても過去2作同様、sister marron氏撮影のフォトが使用され、封入の赤いフィルムによってステージ上の怜士が炎上しているイメージが醸し出されることとなる。

アルバムタイトルについて怜士は語る。「音を聴いて真っ先に浮かんだ言葉が「烈火」だった。「烈火」が「RED CARD」になった。烈火の如く怒り狂って「お前ら退場!」と(笑)でも、今となってはあの人たちに感謝してる。あの人たちへの怒りがなかったら絶対に出ない、これ以上は無理!っていう爆発的な声が出てるからね」「冒頭でいきなりギターをミスってる。中盤の曲に至っては歌ってる最中に歌詞が飛んじゃって、急遽、歌詞の順序を組み替えて歌ってる。でも、それがマイナスに作用してない。プラスに作用してる。勢いが全てを飲み込んじゃってる。つまり、1st『ROCK&REISHI』がギターポップで2nd『爆弾』がグランジなら、『RED CARD』はパンクなんだ」

待望の新作『RED CARD』は2018年11月18日発表予定。これまで通り物販席等に並ぶことのない非売品。怜士はあなたが直接「レッドカードを食らわせてくれ」と言ってくるのを待っている。

「退場!」は時に自由を喚起させる。

(文/本田純正)


名曲の予感

いつものギブリンではなく、このマルちゃんを抱えて、自分の中から何か出てくるか試してみた。要するに作曲だ。

すぐにメインとなる歌い出しのメロディーが浮かんで、中盤でひとひねり加えて、30分足らずで一曲できた。あとは歌詞を乗せるだけ。

あまりに良い出来なので、録音して何度か聴いてみたのだが、何度聴いても良い。うちの奥さんは「ビートルズっぽい。でも、何か別の物も絡んでるような…」と言った。確かにビートルズっぽい。個人的にはかなりジョン・レノンっぽいと思っている。が、例の如く、歌詞が乗れば和田怜士の曲だとしか言い様のないものになって、誰もビートルズっぽいとかレノンっぽいとか言わないだろうと思う。

ミドルテンポな曲。スローにすればバラードにもなる。トータルタイムはだいぶゆったり歌って2分40秒だった。

2分40秒!旨味をギュッと凝縮させた結果とも言えるこの短さこそが名曲の予感なのだ。


佐野元春

一年前、この人のアルバムは一枚も持っていなかった。それが今や俺のCD棚の中で、ビートルズ、オアシス、ストーンズに次ぐ4番目に大きな勢力になった。

一年前は「サムデイ」と「ガラスのジェネレーション」しか知らなかった。「大した実績もないのに大御所な人」だと思っていた。「ロックの人」というイメージすらなくて、「杏里の男版」くらいに思っていた。それが…。

きっかけは、ライヴハウス等にごく稀にいる素晴らしいアーティスト。例えば、バニーマツモロさんやヒラタユウイチさんといった人たちが皆悉く「好き」と言っているのを耳にしたことだった。で、半信半疑、近所の中古屋の特価コーナーに並んでるのを買ってきて聴いたら全部良くて驚いて、最近発表された作品を買って聴いてみたらこれが昔のよりも良くて、映像を観てもカッコいいし、人間的にも愛嬌があって面白いし…傾倒が始まった。

作品のたびにやることが変わる。音楽的な引き出しが恐ろしく多い。言葉の紡ぎ方も素晴らしい。「詩人」と称されるだけあって「歌詞」ではなく「詩」を歌う。トータル的には、日本語を歌ってはいるが常に洋楽のニュアンスがある。そして、「何をやっても軸にあるのはロックンロール」という姿勢をデビュー以来、60歳を超えた現在に至るまで貫き通してきたことが問答無用にカッコいい。

来月、初めてライヴを観に行く。今から楽しみでならない。

それしても俺、音楽以外の事にもこれくらい勉強熱心ならもう少し出世できたのかもしれないな…と思わないこともない。

ま、音楽で出世すりゃいっか。