八回目の謎

「七転び八起き」という言葉はおかしい。七回しか転んでないにも関わらず、八回起きている。この男はきっと、過去に七回も転んでいるので、八回目もあるだろうと勝手に思い込んで、八回目の「起」の準備に余念がなかったのであるが、予想に反していつまで経っても八回目の「転」が来ないので、なんだかちょっとガッカリして、肩を落として、いつもなら転ぶタイミングの所で転んだと仮定して、「えいや!」と言って起きるフリをしてみたところ、わけのわからない虚しさが込み上げてきて、「こんなことしてるから俺、全っ然友達おらんのかな…」と呟いて哭いた―という話なのではなかろうか。

「七転八倒」は、もっとおかしい。本来であれば、七回転んで七回倒れた時点で病院へ行け!という話なのであるが、この男は病院嫌いで有名な男で、なんだかんだと屁理屈を言って病院に行かなかった。その結果、言わんこっちゃない、八回目に倒れた時には転んでさえいないのである。姿勢が崩れてから倒れるのではなく、棒立ちの状態のまま倒れているのであるから、これはもう手遅れ。心肺停止。周りの者も「あれほど病院へ行けと言ったのに行かんからだ」と冷笑して男の側を通り過ぎ、中にはツバを吐きかける者もあり、誰一人手助けをしないので、この男は八回目に倒れた時点で息をひきとったと思われる。

「七転び八起き」は、一人相撲の弊害を説いた言葉かと思われる。そして「七転八倒」は、「つべこべ言わずに病院へ行きなさい」という意味合いの言葉かと思われる

たぶん、違うかと思われる。


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