町田康『破滅の石だたみ』より

※以下の文章は、私が太宰治に並んで尊敬している作家―町田康の『破滅の石だたみ』の112ページにある文章で、彼が自らの長編小説『告白』を何故書こうと思ったのかについて言及している部分なのであるが、その文章が、私にとって非常に感慨深いものだったので、ここに掲載する。

殺人をするにしろ、しないにしろ、人間はいろんなことを考えて生きている。
しかし、その考えは、本当の考えを考えないために考えによって巧妙に考えられた考えで、その考えがあるから人間は本当の考えを考えないで安全に生きていくことができるのではないか、と思う。
そのいろんな考えを中途半端に深いところで考えてしまい、考えの泥沼で進退が窮まって、しかし過ぎてしまった時間は元に戻らず、先に進まざるをえなくなり、結果、ついに本当の考えにたどり着いてしまうというのは悲しいことだが、私はそんなことを書こうと思ってしまったのだった。


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