今、灯りを消した薄暗い部屋の片隅で、昔、アルファベッツ時代にドラマーから譲り受けたジョン・レノンの写真集を眺めている。
残念にも程がある。
俺は本当に丸眼鏡が似合わない。今まで眼鏡屋で丸眼鏡を見掛けるたびに試着してみたが、鏡で一見するやいなや食欲が無くなるくらいの勢いで似合わなかった。
誰にも言われたことはないが、俺はレノンに顔、雰囲気ともに似ていると自負している。顔と雰囲気が似ているのに、眼鏡が全くしっくりこない、似合わないというのは一体どういうことだろう。
レノンの丸眼鏡みたいに、俺にも一見してそれとわかる、いちいち自己紹介的なことをしなくても「あ、この人はあっち方面の人やな。その筋の人やな」ということが一発で伝わる何かが欲しいなと思う。
ところで、俺は昔からよく「あんたは謎やな」とか言われてきた。ちょっと前の職場でも上司から面と向かって言われた。最初は嬉しかった。なんかかっこええな、と思った。でもすぐに「違うな」、「はっきり言って嫌やな」と思うようになった。というのも、自分のことを一から説明しないといけないからだ。「自分はこういう人間です」なんて逐一説明しないといけないからだ。でも、この説明がめちゃくちゃ難しいんだ。ちゃんと伝わったためしがない。っていうかちゃんと伝わるわけがない。だって俺自身、俺がどんな人間なのかさっぱりわかってないんだから。
めちゃくちゃ面倒臭いわりにめちゃくちゃ無駄足。
で、日々、自己紹介的なことをする。が、これが間違いだらけで、その間違いだらけの自己紹介を間違えた捉え方をされて、その間違えた捉え方によって縫製された人物像を手渡されて「はい、じゃこれを着てください」なんて言われて着てみるが、これがまた丸眼鏡どころではないくらいにしっくり来ず、似合わず、またぞろ食欲が無くなるのだが、一度貼られたレッテルはなかなか剥がれず、作り直しも効かず、かといって誰にどうクレームをつけたら良いのかもわからず、結果、自分を生きるということに関して完全な迷子となってしまったのである。
享楽都市の孤独。
世の中の大半の人は仮面を付けて生きている。繁華街は仮面舞踏会みたいなことになっている。俺はたぶん、仮面は付けていない、もしくは付けていたとしてもお祭りの夜店で売っているお面のようにうっすいうっすいものだと思う。ただ、俺は完全なる迷子。賑やかな仮面舞踏会、地に足の着いた立派な大人たちの快活な笑い声の渦に揉まれて埋もれてたまに両手を上げてくるくる回転しながら唇を尖らせてアップアップ言って窒息しそうになっているピカチュウのお面を付けた迷子だと思う。
享楽都市の孤独
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