「先生、私、「怒る」ということのできる人間になりたいんです。何とかなりませんか?」
「そうですか。わかりました。じゃ、これを被ってみてください。はい、どうぞ」
「.....先生、これ、私、何か全然似合ってないような気がするんですけど」
「はい。正直申し上げて全く似合っておられません。わたくし、失礼ながら今、必死に笑いを堪えております」
「.....」
「そのずきんは『怒ずきん』と申しまして、人格的に「怒」の感情の似合う方にはバッチリフィットするんですが、「怒」の感情の似合わない方にはサイズ的にも見た目的にも全く似合わないように設計されておるのです」
「じゃ、私には「怒」の感情が似合わないってことですか?でも先生、そもそも人間の感情に似合うとか似合わないとかってあるんですか?」
「ありますとも。例えばうちのかみさんなんて、その怒ずきんがまるで身体の一部かのような勢いで似合いますよ。あまりにフィットし過ぎて外れなかったことさえあったくらいなんですから」
「私は先生の奥様が羨ましいです」
「そうですかぁ?私は全くそうは思いませんよ。素敵なことじゃないですか。怒ずきんなんて似合わないに越したことはないんですよ」
「そんなもんでしょうか?」
「そんなもんです。あなたは無理に怒る必要なんてない。似合わないんですから。だから今後、もし無理に怒ろうとしている自分を感じた場合にはぜひ思い出してみてください。今のそのお姿、怒ずきんを被っておられるご自分のお姿を思い出してみてください。失礼を承知でもう一度申し上げますが、私は今も必死に笑いを堪えておりますよ」
「そうですか。そうですよね。だって私自身、先程から必死に笑いを堪えてますもの。ずきん、お返しします。私に「怒」は似合いません」
「そうです。そしてそれは本当に素敵なことです」
「素敵なこと...」
「そうです、本当に本当に素敵なことです」
素敵な不似合い
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