「優しさが怖い」という声もよく聞いた。
後々、何らかの形で大きな代償を支払わされるのは目に見えていたし、「あの時、あなたを助けたのは誰やったっけ?」みたいなことを、ことあるごとに言われるのはわかりきっていた。だから優しくされればされるほどに、借金が積もっていくような不安が一憩の中にあった。
過去は過去、終わったこと...として終わらないのが常だった。過去を持ち出されると手も足も出ず黙ってしまう一憩は、手も足も出ず黙ってしまう自分自身を猛烈に憎んでいた。
私は一憩の怒りの声をいっぱい聞いた。でもそれはいつも、私にしか聞こえない声だった。
阿仁真里(3/5)
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