一憩は暫く考え込んでいたが、やがてゆっくり開眼すると傍らにいた木元辰乃丞という文官に「余の剣と、虎の印をこれへ」と言い、持ってこさせた。そして紫色の絨毯に覆われた階段をゆっくり降りるとカート将軍の前へ行き、虎の印を手渡して「行け。行ってノーマン将軍を助けよ」と言った。そして、カート将軍の左斜め後ろにいた稲葉浩志という武官の首を自らの剣で叩き切って階段右横の「燃えないゴミ」と書かれた箱に投げ棄て、背中越し、カート将軍に「負けは許さん」と言った。
「あ、有り難き幸せ!」カート将軍は目を輝かせて言うと、付き従う二人の大男に「行くぞ!」と一喝、喜び勇んで宮外へと飛び出していった。
「カート将軍なら無問題」「さすが我が君、器がデカイ!」「『仕事が速い!』みたいに言うなや、あぱぱぱぱ」我が身の安全を確信した将校どものざわめきに呆れ果てている一憩の耳に突如、予想だにしない女性の声が飛び込んできた。
「我が君。私をお忘れか!」
「おう、誰かと思えば」
名乗り出たのは他でもない。エコーベリー率いるソニア・マダン将軍、その人であった。
〈続く〉
カート将軍とニルヴァーナ。
彼らは一憩旗揚げ時からの忠臣であり、その歴史と功績はビートルズ、ストーンズに次ぐものであったが、素行にやや問題があり、問題発言、ネガティブな思想、自虐的行為の類が絶えず、時に目を覆うばかりであったので、一憩の虎選考からいつも洩れてしまっていた。が、その実力、勇猛果敢な働きっぷりはすでに天下に轟いていたし、一憩もそれは痛いほどに認めているところであった。が、やはり素行が...なのであった。
「我が君。今、この国家存亡の局面においてもなお、素行素行などと言っておるのは極めて稚拙。拙者の、そして今まで拙者に付き従い、共に我が君の為、命を省みず戦って参りましたこの両名の自尊心というものを我が君、あなたはどう考えておられるのか。それとも、そもそも我々武人には自尊心など持ち得無いであろうとのお考えか!」カート将軍は溜まりに溜まった不満を爆発させるかのように訴えた。
「これ!少し言葉が過ぎるぞ!」カート将軍の背後にいた小田和正という文官が口を挟んだが、刹那、和正の背後にいたイギーポップ将軍が「御免!」と一喝、これを切り捨て、宮外へと引き摺りだした。
〈続く〉
〈俺の中で大規模な反乱が勃発している。俺の大嫌いな色―黄色の布を頭に巻いた賊が昼夜を問わず暴れまくり、俺領土全域で非道の限りを尽くしている〉
「鎮圧してくれ!」中央から伝令がとんで、六頭の虎が各戦線に出陣。数日後、全ての戦線から「苦戦を強いられている」との報告が届いた。中でもティーンエイジ・ファンクラブは苦戦しておるらしく、ティーンエイジ率いるノーマン将軍からは援軍を乞う密使が到着した。文にはこうあった。「我が軍、ぎりぎりにて候。直ちに援軍、願わくは新たな虎の任命とその出陣を要請す」
一憩はただちにすべての武官文官を宮中に召集し、会議を催した。
居並ぶ武官文官たちに事態の深刻さを物語ると、一憩は突如立ち上がって叫んだ。「誰か、この国家存亡の危機に際してその勇を天下に示さんと欲する者はおらんか!」
「お前行けや」「こういう時はお前ちゃうんか」ざわめく将校どもの中から「オウ!」と声がして、身の丈2Mはあるかと思われる大男二人を従えた一見浮浪者、よく見ると男前、小さな男が一憩の眼下に現れた。
「おう、誰かと思えば」
名乗り出たのは他でもない。ニルヴァーナ率いるカート・コバーン将軍、その人であった。
〈続く〉
「業務」はできた。
「人間」ができなかった。
怖かった。
誰にも気付かれないように逃げまわっていた。
苛々した。
たまに隠し切れなかった。
高速回転。
ベルトコンベアの上を逆走していた。
少しでも気を抜くと弾き飛ばされる。
弾き飛ばされて鐘一つ。
「天職であれ」人知れず願っていた。
天職ではなかった。
暗転。
本屋さんは、雨、大嫌いなんやろうなと思う。「うわ、雨や..」みたいなことを思うんやろうなと思う。
酒屋さんは酒屋さんで、言うに言えぬ苦悩があるんやろうな、と思う。売らなアカン。生活がかかってる。商売は商売。でも、売りたくねえな..って思う時があるような気がする。
雨。
電車の中で、マクドを貪り食っている若い馬鹿野郎がいる。
馬鹿だ。馬鹿野郎だ。でも、目は俺なんかよりずっとイキイキしている。
きっと彼は、そして彼の隣に座っている彼女は、永遠に死なない。
馬鹿だから。
町田康に会いたい。
最近毎日。「ほぼ」じゃない。本当に毎日欠かさず、天六商店街をぶらついている。
何を探してるんだかさっぱりわからん。わからんが、何かを探している、「探さねば」と思っている自分がいて、気が付くとこの商店街にいる。ここに来れば何かが見つかりそうな気がして来るけど、結局何も見つからず、フラフラになって帰途につく。そんな毎日。
何か。何でも良いから何か、創らねばなあと思う。
何か創らないと、俺は、俺という人間は、俺という人間の時間は、ただただ「無駄」だとしか思えない。
誰かを喜ばせたいなあと思う。自分の創ったもので誰かを喜ばせたいなあと思う。その顔を見て、喜びたいなあと思う。
神様に、俺担当の天使に、俺自身に、本当に申し訳ないなあと思う。
今日、天六、雨。行き交う人、皆、いつもの元気がない。
頼むからあんたらは元気でいてくれ!
と、思う。
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